地方から人が出ていく、という言い方には主語がない。実際に動いているのは特定の年齢の、特定のタイミングにいる人たちである。総務省の人口移動統計を年齢で割ってみると、山は驚くほど狭い範囲に立っている。その山がどこにあり、何に反応して動いているのかがわかれば、地域経済と若い世代の関係はかなり具体的に見えてくる。
転入超過の山は、20代前半に集中している
総務省が公表した住民基本台帳人口移動報告の2025年結果によれば、三大都市圏全体では11万9,581人の転入超過となった。このうち東京圏の動きを年齢5歳階級で見ると、偏りがはっきり出る。
最も多いのは20〜24歳で8万443人。次いで25〜29歳が2万3,546人、15〜19歳が2万1,469人と続く。上位三つがすべて10代後半から20代で占められている。東京都単体への転入超過は6万5,219人だった。
20〜24歳の8万人という数字は、他の年齢階級を合わせても届かない規模である。裏を返せば、30代以降では地域間の移動はそれほど起きていない。人の流れを変えたいなら、この数年の幅に何が起きているかを見るしかない。
この年齢帯に何があるかは考えるまでもない。大学進学と、学校を出て最初の就職である。地域経済にとっての課題は「若者が出ていくこと」ではなく、「進学と就職という二つの分岐で選ばれないこと」に絞られる。
動く理由は、進学と就職の二回にある
内閣府がまとめた地域課題分析レポートの2024年秋号は、まさにこの二つの分岐を扱っている。コロナ禍で一度減速した東京圏への流入は2023年に再び拡大し、12万人を超える水準に戻った。東北、東海、近畿、九州からの流入が多い傾向も示されている。
進学時の移動には、地元に選びたい学部がないという事情が絡む。志望する分野の学部が県内になければ、成績や意欲と関係なく出るしかない。この段階の流出は、自治体の産業政策ではほとんど手が届かない領域にある。
一方、就職時の分岐には介入の余地がある。同レポートの分析では、20代前半において、相対的に賃金が高い地域ほど転入超過率が高いという関係が確認されている。大学新卒を中心に、就職先の選択に賃金が効いているという読み方だ。
進学で出た人が就職で戻るかどうか。地域経済が働きかけられるのは、主にこの二回目の分岐である。
賃金との相関は、女性でより強く出る
同じ分析で見逃せないのが、男女差である。新卒を含む若年層、とりわけ女性において賃金との相関が強いと指摘されている。人手不足が深刻な地域に必ずしも人が流入せず、Uターンも起きない理由の一つとして、賃金が十分に上がっていない可能性が挙げられている。
求人があるのに人が来ない、という状況は地方でよく聞かれる。数字の上では、求人の有無と移動の方向は必ずしも一致していない。募集をかけているかどうかではなく、提示している条件が他地域と比べてどの位置にあるかが効いている。
女性で相関が強いという点は、地域の産業構成とも関わる。製造や建設に偏った雇用構造の地域では、女性が就きたい職種の選択肢がそもそも少なく、賃金水準も上がりにくい。若い女性の転出が続く地域で人口の再生産が止まるのは、この積み重ねの結果である。
民間シンクタンクの大和総研の分析でも、2024年に東京圏へ移った10代と20代は合わせて13万人を超え、男性より女性のほうが多かったことが示されている。流出対策を若者一般の話として設計すると、この差を取りこぼす。
Uターンを希望する学生は、むしろ増えている
悲観的な材料ばかりではない。先の内閣府レポートは、職があれば地元に残りたかった、あるいは戻りたかったという若者が一定数いることを示している。大学生のUターン希望者は足元で増加傾向にある。
2025年卒の就職活動中の大学生を2020年卒と比べると、Uターン希望の割合はすべての地域で増えていた。なかでも東海、九州・沖縄、東北、北陸では、およそ半数がUターンを希望している。コロナ禍を挟んだ働き方の変化が、選択肢の見え方を変えたとみられる。
希望と実際の行動の間にある溝を埋められるかが、地域側の勝負どころになる。半数が戻りたいと答えているのに転出超過が続いているなら、それは意思の問題ではなく、受け皿と情報の問題だということになる。
同レポートは、地域の若者や保護者が地元企業を知らないために、就職活動の選択肢に入りにくいという課題も挙げている。給与や仕事内容を比較する以前に、候補として認識されていない。中小企業が大半を占める地域では、この入口のつまずきが大きく響く。
知られていない、という壁を下げる
地元企業が候補に入らない問題は、広告費を積んでも解決しにくい。学生が企業を知る経路は、学校のキャリア支援、家族や知人の話、インターンシップでの実体験に偏っているからだ。
だからこそ、進学前後の早い段階で地域と接点を持てるかが効いてくる。移住を決めなくても関われる関わり方を用意しておけば、就職の分岐に立ったときに候補として思い出される。この考え方は関係人口の定義として国の施策にも取り入れられている。
具体的な入口は、短期インターン、地域課題に取り組むプロジェクト、産地の工場開放といった形をとる。FLASPOが各地の自治体や企業と重ねてきた取り組みも、この段階の接点づくりに当たる。
接点づくりで大切なのは、回数より手触りである。会社説明を一度聞いただけの企業は記憶に残らないが、実際に手を動かした現場は、数年後の進路選択の場面でも名前が出てくる。学生を迎える側にとっては負担の大きい取り組みだが、採用広告を出し続けるより費用対効果は高くつくことが多い。
地方で働くことへの先入観が更新されるだけでも、選択肢の幅は変わる。若い世代の価値観そのものが動いていることは、地方就職と若者の価値観の変化を扱った記事でも触れられている。
| 年齢階級 | 東京圏への転入超過数(2025年) | 主な移動のきっかけ |
|---|---|---|
| 15〜19歳 | 2万1,469人 | 大学進学 |
| 20〜24歳 | 8万443人 | 大学進学・新卒就職 |
| 25〜29歳 | 2万3,546人 | 転職・結婚 |
よくある質問
若者の流出を止めるには、まず何をすればよいですか。賃金水準の確認が先です。移動と最も相関が強いのが賃金である以上、求人票の条件が近隣の都市圏と比べてどの位置にあるかを把握しないまま施策を重ねても効きにくくなります。そのうえで、知られていない問題への対処が並びます。
進学での流出は、あきらめるしかないのでしょうか。止めること自体を目標にする必要はありません。出ていくことを前提に、在学中に地元とつながり続ける仕組みを作るほうが現実的です。就職の分岐で戻る選択肢が残っていれば、進学時の移動は一時的なものになります。
Uターン希望が半数というのは、本当に地域の追い風ですか。希望はあくまで意向調査の結果であり、実際の行動とは差があります。ただし、意向がゼロに近ければ打つ手はありませんが、半数が戻りたいと答えているなら、条件の提示と情報の届け方を変える余地があるということです。
移動が落ち着く30代以降に働きかける意味はありますか。あります。年齢階級別に見ると30代以降の移動は小さくなりますが、その分だけ一度動いた人は長く定着します。子育ての環境や住居費を理由にした移動はこの層で起きやすく、二十代向けとは別の条件整備が必要になります。
若い女性の転出にはどう向き合えばよいですか。職種の幅を広げることが中心になります。製造や建設に偏った雇用構造のままでは選択肢が限られ、賃金も上がりにくいままです。事務職以外の専門職やサービス業を含めて、地域内でどんな仕事に就けるのかを可視化する取り組みが各地で進んでいます。
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