働き手が足りないという話と、働く人がまだ増えているという話は、どちらも同じ年の統計から出てくる。矛盾しているようで、実は見ている場所が違うだけだ。人口が減る局面で労働力がどう動いてきたのか、そしてこの先どこで折れるのかを、総務省の調査と公的な推計で順に確かめていく。
働き手の総数は、まだ減りはじめていない
生産年齢人口は1990年代の後半から縮み続けている。総務省統計局の人口推計では、2026年3月1日現在の確定値で15〜64歳は7329万人となり、前年同月に比べて0.36パーセント減った。素直に考えれば、働く人の数もそれに合わせて減っていそうなものである。
ところが実際の数字はそうなっていない。総務省統計局の労働力調査の年平均結果では、就業率は2025年平均で62.2パーセントと前年より0.5ポイント上がり、5年連続の上昇となった。労働力人口は年平均で7000万人台に手が届くところまで来ている。
この差を生んでいるのが労働参加率である。同じ人口でも、働く意思をもって労働市場に出る人の割合が上がれば、働き手の総数は維持できる。過去十数年、日本はこの方法で人口減少の影響を先送りしてきた。言い換えれば、いま見えている「まだ足りている」という状態は、人口が減っていないからではなく、参加率の上昇が減少分を埋めてきた結果にすぎない。
増えた分は、どこから来たのか
埋めてきたのは主に二つの層だ。労働力調査によると、15〜64歳の女性の労働力人口は2025年平均で2794万人となり、前年より32万人増えた。この年齢層の女性の労働力人口比率は77.2パーセントで、1.1ポイントの上昇である。女性の就業率も55.1パーセントと0.9ポイント上がった。
もう一つが高齢層の就業だ。60代後半から70代前半にかけて働き続ける人が増え、定年後の再雇用や短時間勤務という受け皿が制度として広がったことが背景にある。内閣府の高齢社会白書も、高齢期の就業と所得の章でこの流れを追っている。
ただし、この二つの源泉には限りがある。女性の比率が77パーセントを超えてきたということは、伸びしろが残り二割強しかないという意味でもある。高齢層についても、年齢が上がるほど健康や介護の事情で就業が難しくなるため、際限なく延ばせるものではない。参加率という蛇口は、いずれ開ききる。地方で働くという選択肢が注目されるのも、場所の制約を外せば参加できる人がまだいるからだ。
2040年の姿は、前提しだいで大きく振れる
では、その蛇口が開ききったあとはどうなるのか。労働政策研究・研修機構の2023年度版 労働力需給の推計は、複数のシナリオを置いて2040年までを試算している。
一人当たりゼロ成長で労働参加が現状のまま進んだ場合、就業者数は2022年の6724万人から2030年に6430万人、2040年には5768万人まで減る。一方、経済成長が実現し、労働参加が進展した場合には、2030年時点で6858万人へと逆に増える見通しが示されている。同じ2030年について、およそ430万人の開きがある。
| 前提 | 2022年 | 2030年 | 2040年 |
|---|---|---|---|
| ゼロ成長・参加現状 | 6,724万人 | 6,430万人 | 5,768万人 |
| 成長実現・参加進展 | 6,724万人 | 6,858万人 | ― |
この幅の大きさは、推計が不正確だという意味ではない。将来の働き手の数が、人口という動かせない条件だけでなく、政策と企業の行動しだいで変わる余地を残していることを示している。出生数が今日増えても労働力になるのは二十年後だが、参加率と生産性は今年からでも動かせる。
不足がいちばん早く出るのは、需要が伸びる現場
全体の総数が保たれていても、不足は特定の分野に集中して現れる。象徴的なのが介護だ。厚生労働省の介護人材確保に向けた取組で示された推計では、2040年度に必要となる介護職員はおよそ272万人で、2022年度の約215万人に比べて57万人多い。毎年平均で3万2千人を確保し続けなければ届かない計算になる。
高齢化が進むほど需要が増える分野ほど、担い手を確保しにくい。この組み合わせが、人手不足を理由とする倒産という形で表に出ている。帝国データバンクの集計では、2025年の人手不足倒産は427件と3年連続で過去最多を更新し、建設業や道路貨物運送業とならんで老人福祉事業での増加が目立った。
地域差も無視できない。若い世代の流出が続いた地域では、生産年齢人口の縮小が全国平均より早く進む。医療や介護、物流、農林業といった現場を維持できるかどうかは、全国の合計値ではなく、その地域に何人残っているかで決まる。日本の人口減少はなぜ起きるのかという問いは、労働の側から見ると分布の問題でもある。
不足のしわ寄せは、残った人の働き方にも及ぶ。一人が受け持つ範囲が広がり、休みを取りにくくなり、それがまた離職につながる。帝国データバンクの同じ集計で、従業員や経営幹部の退職が引き金になった倒産が118件と過去最多を記録したのは、この連鎖が個々の企業で臨界点に届いた事例が積み上がったことを意味している。採用の話として語られがちな人手不足は、定着の話でもある。
支え手を増やす道は、大きく三本ある
一本目は、まだ働いていない人が働きやすくなるようにすること。育児や介護と両立できる勤務、短時間でも評価される仕組み、通勤を前提としない働き方がこれにあたる。女性の労働力人口比率がこの十年で伸びた背景には、制度と職場の運用が変わったという実務的な要因がある。
二本目は、一人あたりの生産性を上げること。人数が減っても、同じ仕事をより少ない時間で回せれば総量は保てる。設備投資やデジタル化はここに効くが、導入の負担が大きい中小企業でどう進めるかという課題が残る。
三本目が、支え手の範囲そのものを広げることだ。外国人材の受け入れはその代表で、介護分野では制度整備が進んできた。加えて、移住を伴わずに地域の仕事を担う人を増やす方向もある。副業や兼業、短期の現地滞在といった形で関わる人は統計上の人口には表れないが、現場の人手としては確実に効く。学生や若い世代が地域と関わる入口づくりに取り組むFLASPOのような動きも、この三本目に位置づけられる。関係人口という概念が政策の言葉として定着したのは、担い手を定住者だけで数えるやり方に限界が見えてきたからだろう。
よくある質問
Q.生産年齢人口が減っているのに、就業者が増えているのはなぜですか。
A.労働参加率が上がっているためです。15〜64歳の女性の労働力人口比率は2025年平均で77.2パーセントに達し、高齢層の就業も広がりました。人口の減少分を参加率の上昇が上回っている状態が続いています。
Q.その状態はいつまで続きますか。
A.参加率の伸びしろが尽きた時点で終わります。労働政策研究・研修機構の推計では、参加が現状のままなら就業者数は2040年に5768万人まで減る一方、参加が進展すれば2030年時点で6858万人まで増える幅が示されています。
Q.人手不足がとくに深刻な分野はどこですか。
A.介護です。2040年度に必要な職員数はおよそ272万人と見込まれ、2022年度から57万人の上積みが要ります。高齢化で需要が伸びる分野ほど担い手の確保が難しいという関係にあります。
Q.外国人材を増やせば解決しますか。
A.一つの柱ではありますが、それだけでは足りません。受け入れには生活面の支援や日本語教育の体制が伴い、送り出し国側の事情にも左右されます。参加率の向上と生産性の改善を同時に進めることが前提になります。
Q.学生のうちから意識しておくとよいことはありますか。
A.就職先を選ぶときに、その業界の担い手がこの先どう推移するかを見ておくと判断材料が増えます。人が減る前提で仕組みを組み替えている企業や自治体には、若い世代に任される仕事の幅が広い傾向があります。
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