同じ家なのに、見積りが二倍違うことがある
三社に声をかけたら、120万円と200万円と、その中間の金額が並んだ。実家の解体を考えた人がまず戸惑うのはここだろう。金額が割れるのは、業者が適当に数字を出しているからではなく、見積書に含めている範囲が会社ごとに違うからである。建物を壊して運び出す本体工事のほかに、残された家具の処分、ブロック塀や物置の撤去、庭木の伐採、重機が入れない現場での手作業といった項目が付いてくる。どこまでを一式に含め、どこから別途とするかの線引きが各社で異なるため、総額だけを並べても比較にならない。費用を読み解く順番としては、まず構造と延べ床面積から本体の水準をつかみ、次に付帯する工事を数え、最後に補助制度で戻る分を差し引くとよい。この三段階で見ていけば、どの見積りが高いのかではなく、どの項目が抜けているのかが見えてくる。総務省統計局の調査では、賃貸や売却の予定がないまま置かれている空き家は2023年時点で385万6千戸にのぼる。その多くがいずれこの試算に向き合うことになる。
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」。
本体の費用は構造と広さでおおよそ決まる
解体費用の土台になるのは、何でできた建物かという点だ。民間の相場情報では、木造で一坪あたり3万円から5万円台、鉄骨造で5万円から7万円程度、鉄筋コンクリート造で8万円から12万円程度という幅が示されている。木造30坪の住宅なら120万円から180万円あたりが一つの目安になる計算である。この水準は、自治体が補助金を算定するために定めている標準単価とも大きくは離れていない。宇都宮市は老朽危険空き家の除却費補助で延べ床面積1平方メートルあたり11,000円という単価を置いており、1坪は約3.3平方メートルなので坪あたり3万6千円ほどにあたる。名古屋市も同様の考え方で1平方メートルあたり9,600円という単価を用いている。公的な算定根拠が民間相場の下限付近に置かれていると見れば、提示された金額が妥当な範囲にあるかを判断しやすい。ただし近年は産業廃棄物の処分費が上がっており、同じ構造でも数年前の相場では収まらない工事が増えている。古い記事の数字をそのまま当てにしないほうがよい。
| 構造 | 坪あたりの目安 | 30坪相当の本体費用 |
|---|---|---|
| 木造 | 3万〜5万円台 | およそ120万〜180万円 |
| 鉄骨造 | 5万〜7万円程度 | およそ150万〜210万円 |
| 鉄筋コンクリート造 | 8万〜12万円程度 | およそ240万〜360万円 |
出典:宇都宮市「老朽危険空き家除却費補助金」。坪単価の幅は民間の解体費用情報によるもので、地域や時期によって上下する。
金額が膨らむのは本体以外の項目
本体の単価が同じでも、最終的な請求額が開くのは周辺の事情による。まず残置物である。家具や衣類、仏壇、古い家電がそのまま残っていると産業廃棄物として処分することになり、自分で片づけた場合よりかなり高くつく。自治体の補助制度でも、家財の処理費や跡地の整備費は対象外とされていることが多い。次に立地だ。前面道路が狭くて重機やトラックが入れない現場では手壊しの比率が上がり、人件費と運搬の手間が増える。隣家との距離が近ければ養生や防音の措置も厚くなる。加えて法令上の手続きがある。床面積80平方メートル以上の建築物を解体する工事は建設リサイクル法の届出対象で、着工の7日前までに都道府県知事への届出が必要だ。石綿の事前調査も避けて通れない。2022年4月から一定規模以上の工事で調査結果の報告が義務づけられ、2023年10月からは建築物石綿含有建材調査者などの有資格者でなければ調査を行えなくなった。古い建物ほど含有建材が見つかる確率は高く、除去が必要になれば費用は別枠で積み上がる。
補助制度はどこまで使えるのか
除却の費用を自治体が一部負担する制度は全国に広がっている。窓口は国ではなく、物件のある市区町村だ。国は空き家対策総合支援事業などを通じて自治体の制度を裏から支える形をとっているため、個人が国に直接申請する経路はない。補助の水準は自治体によって差があるが、費用の3分の1から2分の1程度を補助し、上限を50万円から100万円あたりに置く設計が多い。広島県福山市は除却工事に要する費用の3分の1以内かつ上限50万円、宇都宮市は標準単価で算出した額の3分の2で上限70万円というように、率と上限の組み合わせで決まる。東京都のように家財整理と解体をあわせて支援する制度もある。要件として共通しがちなのは、旧耐震基準の時期に建てられていること、一定期間使われていないこと、老朽度の判定を受けること、市税の滞納がないこと、市が登録した業者による施工であることなどだ。注意したいのは申請の時期で、着工前の申請と交付決定が条件になる。先に工事を始めてしまうと対象から外れるため、業者に声をかける前に窓口へ相談する順序がよい。
出典:福山市「空家除却支援事業補助について」、東京都住宅政策本部「東京都空き家家財整理・解体促進事業」。
壊したあとに効いてくる費用がある
工事が終われば支出が止まるわけではない。更地になると、建物が建っていることを前提にした住宅用地の特例が土地に適用されなくなり、翌年度から固定資産税の負担が変わる。固定資産税はその年の1月1日時点の状況で課税されるため、年内に壊すか年明けに壊すかで一年分の扱いが変わる場面もある。解体を決めたら、市町村の資産税担当に更地になった場合の税額を試算してもらうと判断材料が増える。登記の手続きも残る。建物を取り壊したときは、不動産登記法にもとづき1か月以内に建物滅失登記を申請する義務があり、怠ると過料の対象になる。登記が残ったままでは土地の売却手続きも進まない。そして跡地をどうするかという問題が続く。売る、駐車場にする、近隣に貸す、地域の共同の場として使ってもらうなど、選択肢は立地によって変わる。人口が減っている地域では買い手が現れるまで時間がかかることもあり、その構造は過疎化とは?総務省の定義・原因・問題・成功事例を20代向け解説で扱った通りだ。壊す前にまだ使える家であれば、空き家バンクとは?仕組み・利用法・メリット5つ・デメリット4つのような引き渡しの道も残っている。空き家の相談を各地で受けてきたFLASPOの実感としても、解体は最後の手段として比較したほうが後悔が少ない。
よくある質問
木造30坪の家を壊すといくらかかりますか。
本体工事だけなら120万円から180万円程度が一つの目安である。残置物の処分、塀や庭木の撤去、重機が入れない立地などの条件が加わると、この幅を超えることがある。
見積りを比べるときの注意点は何ですか。
総額ではなく内訳をそろえて比べたい。家財の処分費、付帯工事、廃材の運搬と処分、届出や調査の費用が含まれているかを一項目ずつ確認する。
補助金はいくらもらえますか。
自治体によって異なるが、費用の3分の1から2分の1程度、上限50万円から100万円あたりの設計が多い。標準単価で計算した額が上限になる自治体もある。
工事を始めてから補助金を申請できますか。
原則としてできない。着工前の申請と交付決定が要件になっているためで、契約前に市区町村の窓口へ相談しておきたい。
アスベストの調査は必ず必要ですか。
解体工事では事前調査が義務であり、一定規模以上では結果の報告も求められる。2023年10月以降、調査は有資格者が行うことになっている。
壊すと固定資産税は本当に上がりますか。
土地にかかる分の軽減がなくなるため、多くの場合は負担が増える。一方で家屋にかかる分はなくなるので、増減は敷地の広さと評価額によって変わる。
解体費用を用意できないときはどうすればよいですか。
補助制度のほか、金融機関の空き家解体ローンや、土地の売却代金から精算する方法がある。買い手が建物付きのまま引き取る場合もあるので、解体を前提にする前に不動産会社に相談する価値はある。
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