10年目の総括に置かれた一文
「うまくいかなかった」と国が自分で書いた文書は、そう多くない。2024年6月10日、内閣官房と内閣府は地方創生10年の取組と今後の推進方向をまとめ、人口減少や東京圏への一極集中という「大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要」があると記した。地域によっては人口が増えた例もあり、そこには成果と言えるものが一定数あるとも評価している。成功と失敗を同じ紙に載せた総括である。
数字で見ると流れの向きがわかる。まち・ひと・しごと創生法が公布・施行された2014年の東京圏への転入超過数は約10.9万人だった。その後に流れは強まり、感染症拡大前の2019年には約14.6万人。2020年は約9.8万人、2021年は約8万人まで減ったが、2022年は約9.4万人、2023年は約11.5万人と再び戻っている。進学や就職を契機とする10代後半と20代の転入超過が続き、その傾向は男性より女性で顕著だと書かれている。出生数のほうは2016年に100万人を割り、2019年に90万人、2022年に80万人を割った。合計特殊出生率は1.20で過去最低である。
計画を書く体制のほうを先に見る
施策の中身より前に、誰がそれを書いたのかを確かめたい。同じ総括のために実施された各地方公共団体における地方創生に関する意識意向調査は、全1,788団体を対象に2024年4月17日から6月12日まで行われ、1,519団体が回答した。回答率は85.0パーセントで、都道府県は100パーセント、市区町村は84.5パーセントである。
ただし規模で開きがある。政令指定都市は20団体のうち19団体、中核市は62団体のうち57団体が答えた一方、町は743団体のうち604団体で81.3パーセント、村は183団体のうち130団体で71.0パーセントだった。小さい自治体ほど回答率が下がる。そして体制の答えがこれを裏づける。地方創生が始まって専任の部署・担当を新たに置いた自治体は16.9パーセントにとどまり、既存の部署・担当を地方創生担当部局として定めた自治体が86.6パーセントを占めた。担当部局そのものを定めていない団体も39団体(2.6パーセント)ある。つまり多くの現場では、既にある仕事の上に新しい計画が積まれた。
| 自治体区分 | 対象数 | 回答数 | 回答割合 |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 47 | 47 | 100% |
| 特別区 | 23 | 22 | 95.7% |
| 政令指定都市 | 20 | 19 | 95.0% |
| 中核市 | 62 | 57 | 91.9% |
| 市(中核市等を除く) | 710 | 640 | 90.1% |
| 町 | 743 | 604 | 81.3% |
| 村 | 183 | 130 | 71.0% |
| 合計 | 1,788 | 1,519 | 85.0% |
「増えた」と答えられたのは手続きの側だった
調査は10年で何が変わったかを自治体に自己評価させている。地域企業や住民との意見交換、アンケートの実施など地域の課題を把握する取組が増えたかという問いには、79.9パーセントが「そうだ」または「どちらかと言えばそうだ」と答えた。国や他の自治体への相談、企業や住民との対話といった外部とのコミュニケーションの機会が増えたという回答は78.4パーセント。職員が地域の将来を考えて行動するようになり内部の活性化につながったという回答は80.7パーセントに達する。
一方で職員の能力向上の取組が増えたという回答は61.9パーセントで、ここは差が出た。都道府県、政令指定都市、中核市では「そうではない」が0パーセントなのに対し、村では15.4パーセントが「そうではない」と答えている。企業、NPO、大学、住民などの参画につながったという問いも全体では77.7パーセントだが、都道府県の95.8パーセント、政令指定都市の89.5パーセントに対し、町は「そうだ」が15.9パーセントにとどまる。上から配られた枠に応じる力そのものが、規模によって違っていた。
成果の自己評価と課題の自己評価が食い違う
ここが読みどころである。成果を問う設問では、域外からの移住者の増加につながったという回答が59.7パーセント、交流人口の増加につながったという回答が61.9パーセント、デジタル技術の活用で生産性やサービスの維持・向上につながったという回答が63.8パーセントだった。おおむね6割が前進を認めている。
ところが課題を問う設問に移ると数字が反転する。人口減少や少子高齢化に歯止めがかかっていないという回答は83.9パーセントで、都道府県では「そうだ」が74.5パーセントに達した。転出超過に歯止めがかかっていないは62.5パーセント、地域住民のコミュニティがぜい弱化しているは64.0パーセント、移動の足の確保や日常の買い物・医療に支障が生じているは60.9パーセントである。産業・経済の活力が低下しているは44.9パーセントで他より低く、企業の立地や農業生産額の増加を挙げる声もあった。移住者は増えた、交流人口も増えた、それでも人口減少は止まっていない。個別の施策が動いたことと、掲げた目標に届くことは別だという構図が、自治体自身の回答として並んでいる。
国に向けて書かれた自由記述がいちばん具体的だった
選択肢では出てこない話が、最後の自由記述に出ている。国に進めてほしい取組として挙げられたなかに「国から策定や改訂を求められる計画が乱立し分かりにくく、事務量も増加」という指摘があり、一体的な策定や内容の簡略化を求めている。交付金についても「交付申請や実績報告の簡素化」「小規模自治体ほど制度活用のハードルが高い」「採択基準の緩和」が並ぶ。デジタル実装では導入費だけでなく維持管理費への支援を求める声があり、小規模自治体では維持管理に一定額が必要になるため導入に至らない案件が多いと書かれている。
競争そのものへの疑問も出た。「東京一極集中の流れは変わっておらず、自治体間での人口の奪い合いや、地域資源の有無などによる地域間格差が生じており、一自治体では取組に限界がある」として、国全体の問題として将来ビジョンを明確に示す必要があるとしている。子育て支援についても「自治体間における奪い合いを過熱させる要因」になっているという指摘があった。別の設問の自由記述では、庁内の人手不足で新たな事業検討が進まない、職員数の削減でリソースが足りない、全庁的なデジタル化の意識が足りず導入が進まないという声も記録されている。計画を増やすことと、計画を回せる人を置くことが別だったと読める。失敗がどこに記録されるかは地方創生の失敗はどこに記録されるか|検査報告が示した759団体の未公表、判定の線引きは自治体の運営はどこで失敗と判定されるか|1,788団体中1団体の線引き、施設整備の構造はハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造にまとめてある。地域の計画に学生として関わる入口を探すなら、FLASPOのような場から現場を見ておくと、資料の読み方が変わる。
よくある質問
地方創生は失敗だったと国が認めたのでしょうか。そうは書かれていません。総括は、大きな流れを変えるには至っていないと述べる一方で、人口が増えた地域には成果と言えるものが一定数あると評価しています。全体としての目標未達と、個別の取組の成否を分けて書いているのが特徴です。
トップダウンの何が問題だったのでしょうか。調査の自由記述では、国から求められる計画が乱立して事務量が増えたこと、交付金の申請と実績報告の負担が小規模自治体ほど重いことが挙げられています。計画の内容そのものではなく、計画を作って報告する作業が現場の時間を取ったという指摘です。
自治体間の競争はどう見られているのでしょうか。移住者や子育て世帯の獲得が自治体間の奪い合いになっており、極端な成果が出ないという回答があります。首都圏でも若者・子育て世帯への施策が拡大しているため地方では太刀打ちできないという声も記録され、国全体での取組を求める意見につながっています。
この調査の数字はどこまで信頼できるのでしょうか。全1,788団体を対象に実施し1,519団体が回答した全数調査型のアンケートで、回答率は85.0パーセントです。ただし町81.3パーセント、村71.0パーセントと小規模自治体の回答率が低いため、小さい自治体の状況は実際よりも薄く反映されている可能性があります。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
