学園祭の保険はどこまで届くか|けがの共済と賠償の保険を分ける

学園祭の準備で保険の話が出てくるのは、たいてい企画が固まったあとである。しかも「何か入っておいたほうがいいですよね」という形で出てくるので、何に備えるのかが決まらないまま見積りを取ることになる。出発点を一つ変えると整理がつく。入るかどうかではなく、誰のどんな損害を想定するのかから始めればよい。

損害を三つに割ると、見るべき制度が決まる

学園祭で起こりうる金銭的な損害は、性格の違う三つに分かれる。第一に、実行委員や出演者といった内側の人のけが。第二に、来場者や近隣に対して負う賠償。第三に、荒天や事故で開催そのものが流れたときの費用である。この三つは備える仕組みが別で、ひとつの契約でまとめて面倒を見るものではない。

順番にも意味がある。内側のけがは、多くの学校で既に下敷きの制度が動いているので、まず現状を確認する作業になる。賠償は学校や団体の契約を確かめる作業で、足りなければ買い足す。開催中止への備えは、費用を先に払う規模かどうかで要否が変わる。確認、確認、判断という順に進めると、見積りを取る前に論点が片づく。

何の損害か 高校までの主な受け皿 大学の主な受け皿 最初に見る場所
生徒・学生のけが 災害共済給付 学生教育研究災害傷害保険 加入状況と対象範囲
来場者・近隣への賠償 学校や団体の賠償責任保険 大学や自治会の賠償責任保険 既存契約の対象行事
飲食物による健康被害 生産物に関する賠償の担保 同左 模擬店が対象に入るか
中止・延期の費用 個別の契約で手配 個別の契約で手配 前払いした費用の額
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高校までは、掛金を払って動いている制度がある

小中学校と高等学校、高等専門学校、幼稚園などには、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付がある。仕組みは保険というより共済で、学校の設置者が保護者等の同意を得てセンターと契約を結び、保護者と設置者が共済掛金を負担することで給付が行われる。生徒が個別に申し込むものではないため、現場の委員会からは見えにくい。

掛金は学校種別ごとに決まっている。センターが公表している令和8年度の額は、児童生徒等1人当たりの年額で義務教育諸学校が920円、高等学校の全日制が2,150円、定時制が980円、通信制が280円、高等専門学校が1,930円、幼稚園が270円である。保護者の負担割合は義務教育諸学校で4割から6割、その他の学校で6割から9割とされ、残りは設置者が負担する。

肝心なのは給付の対象範囲である。センターは「学校の管理下」を六つの場合に分けており、授業中には学級活動、遠足、運動会、修学旅行、大掃除などの特別活動中が含まれると明記されている。学園祭や文化祭はこの特別活動の系統に位置づくのが通例で、準備のための放課後の作業は休憩時間中などの在校時や課外指導中として扱われる余地がある。ただし個別の可否はセンターの審査で決まるので、当てはめを現場で断定しないほうがよい。

金額の目安も押さえておきたい。医療費は、初診から治ゆまでの医療費総額が5,000円以上であることが条件で、給付は医療保険並みの療養に要する費用の4割、うち1割は療養に伴って要する費用として加算される。障害見舞金は1級から14級の区分で4,000万円から88万円、死亡見舞金は3,000万円で、通学中の災害ではいずれも半額になる。損害賠償を受けたことなどで死亡見舞金が支給されない場合には、供花料として17万円が定められている。数字は給付金額の一覧で確かめられる。

大学に上がると、この下敷きが外れる

見落としやすいのはここである。災害共済給付の対象として法令や国会答弁で挙げられているのは、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、特別支援学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園であり、第192回国会の答弁書の一覧にも大学は入っていない。高校の文化祭で当たり前に使っていた仕組みが、大学の学園祭ではそのまま働かない。

代わりに広く使われているのが、公益財団法人日本国際教育支援協会の学生教育研究災害傷害保険である。協会の案内では、補償の対象となる場面として正課中、学校行事中、キャンパス内にいる間、課外活動(クラブ活動)中、通学中、学校施設等相互間の移動中、臨床実習中の事故が挙げられている。学園祭が学校行事として開催されるのか、課外活動として実行委員会が主催するのかで、当てはまる区分が変わる点は確かめたい。

補償の額は加入の型で違う。協会の案内に示されている死亡保険金はAタイプが最高2,000万円、Bタイプが最高1,200万円である。大学によっては保険料を大学が負担して全員加入としている場合があり、学部4年分をまとめて数千円で案内している例もある。自分の在籍校がどちらの運用かは、学生支援の窓口で聞けばその場で分かる。あわせて協会の学研災の案内にある付帯の賠償責任保険の取扱いも確認しておくと、次の論点に直結する。

来場者に向けた賠償は、けがの備えからは出ない

傷害の共済や保険は、加入している本人のけがに対して払われる。来場者が校内で転んで骨を折った、模擬店の天板が倒れて自転車に傷がついた、提供した食品で体調を崩した。こうした場面で問われるのは主催者側の責任であり、受け皿は賠償責任保険になる。性格が違うので、片方に入っていることはもう片方の備えにならない。

まず確かめるのは、新しく契約する前に既にある契約である。学校や大学は施設の管理に関する賠償責任保険に入っていることが多く、学園祭が対象行事に含まれているかどうかが分かれ目になる。含まれていれば委員会側で重ねて手配する必要はなく、含まれていなければ行事単位の契約を検討する。飲食物を出す場合は、提供した物に起因する損害が担保されるかを別に見る。模擬店の衛生管理そのものは学園祭の出店を開くまでの記事で扱った手続きの話になる。

もうひとつ詰めておきたいのが、契約者を誰にするかである。実行委員会には法人格がないため、契約の名義は学校か、学生自治会のような団体か、顧問の教職員になる。名義が決まらないまま見積りだけ集めても前に進まないので、企画段階で学校側と確認しておく。責任の所在と決裁の経路は学園祭の運営方法を整理した記事の線引きがそのまま使える。

中止に備えるかどうかは、前払いの額で決める

三つめの損害は、開催できなかったときに戻ってこない費用である。ステージや音響の手配、印刷物、仕入れた食材、借りた機材のキャンセル料。これらをどれだけ先に払っているかで、備えの必要性が変わる。前払いが少なく、予備日に振り替えられる設計なら、契約を足すより日程の柔軟さで吸収したほうが安い。

一方で、外部の出演者を招く、大型の設営を発注する、学外の会場を借りるといった形になると、前払いの額がひと桁変わる。その規模なら興行の中止に備える契約を検討する意味が出てくる。判断材料は見積りの合計ではなく、中止が決まった時点で返ってこない部分の合計である。予算の組み方と現金の扱いは学園祭の予算をどう組むかの記事に整理した。

加入を決めたら、請求までの道筋も先に書いておく。けがをしたとき誰に申し出るのか、学校の窓口を通すのか、記録として何を残すのか。事故の記録は当日に書かないと再現できないので、本部に様式を一枚置いておく。こうした仕組みを一度通した経験は、学外の催しや団体運営にも持ち出せる。活動の選び方はFLASPOでも扱っている。

よくある質問

保険の話をすると、現場から返ってくる問いはおおむね次の四つである。

文化祭の準備で放課後にけがをした場合も対象になるのか

センターは学校の管理下を六つの場合に分けており、校長の指示または承認に基づいて学校にいる場合も在校時に含まれるとしている。放課後の作業がその枠に入るかは、誰の指示で何時まで残っていたかによって見方が変わる。給付の可否は審査で決まるため、まず学校に申し出て判断を仰ぐのが順序になる。

来場者の持ち物を壊してしまったときはどうすればいいか

その場で自己判断で弁償の約束をせず、状況と連絡先を記録して学校へ報告する。賠償責任保険が使える場合、事故の通知が遅れると手続きが止まることがある。本部に記録の様式を置き、写真と時刻を残す運用にしておくと後の説明が楽になる。

大学の学園祭で来場者向けの保険を委員会が独自に掛けられるか

契約の名義を誰にするかという問題に行き着く。委員会単独では契約者になれないことが多いため、大学や自治会を通す形になる。手続きに日数がかかるので、開催の二か月以上前に相談を始めたい。

共済掛金を払っていれば賠償も見てもらえるのか

共済掛金は児童生徒等本人の災害に対する給付のための負担であり、第三者への賠償を担保するものではない。損害賠償を受けたために死亡見舞金が支給されない場合の供花料が別に定められていることからも、両者が別の制度として組まれていることが読み取れる。賠償への備えは別に手配する必要がある。


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