「選考が始まるのは六月だと聞いていたのに、周りはもう内々定を持っている」。この食い違いは学生の情報不足から起きているのではない。新卒をまとめて採る方式には毎年引き直される日程の線があり、その線と企業の実際の動きが離れていく過程が、政府と文部科学省の調査にそのまま記録されている。誰が何を決め、現場では何が起きているのかを順に確かめていく。
日程を決めているのは経済団体から政府に替わった
就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議が令和七年十二月二十六日にまとめた二〇二七年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方は、日本の就職・採用活動が「企業が新卒者を一括して採用する方式」を中心としてきたと書き出している。この方式の日程は、二〇一七年度の卒業・修了生までは日本経済団体連合会の「採用選考に関する指針」が担っていた。採用活動の多様化を踏まえ、二〇一八年以降は政府が引き継ぎ、毎年度の連絡会議で日程を取りまとめて経済団体に要請する形へ変わっている。
同じ資料が明記しているのは、拘束力の性質である。企業の採用活動は本来、企業自身による自由な経済活動の性格を持つものであり、この要請は採用活動を法的に拘束するものではないとされている。破っても罰則はない。それでも政府が毎年決め続けている理由は、持続的な成長を支える若年人材を育てるため、学生が学業に専念し安心して就職活動に取り組める環境の実現を目指すことにあると説明されている。
三月や六月という時期は、法令ではなく合意として置かれた線にすぎない。この性質を知らずに「違反している企業がある」と受け取ると、目の前で動いている採用の説明がつかなくなる。
三月・六月・十月に引かれた三本の線
二〇二七年度の卒業・修了予定者についても、連絡会議は従来と同じ三本の線を原則とした。広報活動の開始は卒業・修了年度に入る直前の三月一日以降、採用選考活動の開始は卒業・修了年度の六月一日以降、正式な内定日は卒業・修了年度の十月一日以降である。例外は一つだけ置かれており、実施期間が二週間以上の専門活用型インターンシップに参加した人材については、選考開始時期の例外が従前どおり認められている。
この三本の線に、調査で見えている企業の動きを並べてみると、ずれが生じている位置がはっきりする。
| 区分 | 原則とされた時期 | 調査で見えている動き |
|---|---|---|
| 広報活動の開始 | 卒業・修了年度に入る直前の三月一日以降 | 二月以前に開始した企業が約六割 |
| 採用選考活動の開始 | 卒業・修了年度の六月一日以降 | 五月以前に開始した企業が約七割 |
| 内々定 | 日程ルールの対象外 | 五月以前に出し始めた企業が六三・〇% |
| 正式な内定日 | 卒業・修了年度の十月一日以降 | 内定式や正式通知を活動の終わりとみる学生は約一割弱 |
右の列はいずれも公的な調査の結果である。原則が動いていないのに実態だけが前へずれた結果、同じ年度の就職活動が二つの時間軸で進むことになった。
内々定は六三・〇%が五月以前に出ている
文部科学省が就職問題懇談会と協力して行った令和七年度 就職・採用活動に関する調査結果・速報(企業)は、全国から規模と地域と業種のバランスを考えて抽出した五五四六社に回答を依頼し、一三五六社から有効回答を得ている。内訳は大企業が四八四社、中小企業が八七二社である。
内々定を出し始めた時期を聞くと、六月以降と答えた企業は全体で三六・九%にとどまり、前年度の四二・四%からさらに減った。逆に五月以前に出し始めた企業は六三・〇%で、前年度の五七・六%から増えている。大企業ではより早い時期に内々定を出す傾向が見られ、二〇二五年一月以前という回答も一九・九%あった。
学生の側から見ると、入口はインターンシップ等である。連絡会議の資料によれば、インターンシップ等には学生の約七割が参加しており、参加は卒業・修了前年度の七月から本格化する。参加者の約七割が「早期選考の案内」を受け、約六割がその後の採用説明会やセミナーに参加し、約五割が採用試験や面接まで進む。多くの大学で三年次の授業が終わる二月以降に最初の面接や内々定を受けた学生が増え、四月までに累計で約九割が面接を受け、約七割が内々定を得ている。六月までには累計で約九割が内々定を受けていた。
早いほど短く終わる、とはならない
前倒しが進めば活動は早く片づく、と考えたくなる。調査の結果は逆を示している。内閣府の学生アンケートでは、就職・採用活動に九か月間程度以上を要している学生の割合が、令和二年度の約三割から令和六年度には約五割へ増えた。
理由は終わりの決め方にある。学生が活動が終わったと考えるタイミングは、「内々定をもらった企業の中から就職先を決定したとき」と「志望度の高い企業から内々定をもらった時」を合わせて約六割を占める。これに対し、現行ルールで十月一日以降とされている「内定式に出た時・正式な内定通知を受けた時」を挙げた学生は約一割弱しかいない。複数の内々定を抱えたまま本命の結果が出るまで活動を続けるため、開始が早まった分だけ全体が伸びる構造になっている。
この伸びは学業を削る形で吸収されている。文部科学省の大学等への調査では、採用面接等と授業やゼミ、研究活動との時期的な重複に関する学生からの相談が増加傾向にあり、約九割の大学等で学生が就職活動のために授業等を欠席していた。連絡会議の資料は、内定辞退を抑えるための「オワハラ」や「オヤカク」といった、学生の職業選択の自由を妨げる行為にも注意を促している。月ごとの動き方は新卒就活のスケジュール|政府日程と内定率から引く月別の予定表に、書類を出す時期の実態はESの提出時期|政府の日程ルールと実際の提出月のずれを読むにまとめてある。
採る側も採り切れていない
早期化の圧力は、企業が余裕を持っているから生まれたわけではない。連絡会議の資料は、採用予定数を充足できたとする企業の割合が近年減少し、二〇二五年卒では三割台にとどまったと記している。理由としては「選考応募者が予定より少ない」「内定辞退が予定より多かった」が挙げられた。経済界からは、中小企業では内定が本来出るべき十月一日の時点で必要な内定者数を確保できておらず、人材確保に苦しんでいる状況も指摘されている。
入社後の数字も、一括で採ることの限界を映している。厚生労働省が令和七年十月二十四日に公表した新規学卒就職者の離職状況(令和四年三月卒業者)では、就職後三年以内の離職率は新規大学卒就職者が三三・八%、新規高卒就職者が三七・九%だった。大学卒を事業所規模別に見ると、五人未満が五七・五%、五〜二十九人が五二・〇%、三十〜九十九人が四一・九%、百〜四百九十九人が三三・九%、五百〜九百九十九人が三一・五%、千人以上が二七・〇%となる。規模が小さいほど離職率が高く、採用に苦しむ企業ほど定着にも苦しんでいる。
選考の時期を競うだけでは、この二つの数字は動かない。学生が企業を知る機会を選考より前に広く作るほうが、双方の読み違いは減る。学生がコンテストや課題を通じて企業と出会うFLASPOのような接点は、早期選考の代わりではなく、志望先を絞る前の材料を増やす場として使える。離職率から条件を逆算する考え方は自己分析と就活のつなぎ方|離職率33.8%から逆算する条件の決め方で扱っている。
よくある疑問
六月より前に選考を行う企業の試験を受けてもよいのか。受けて差し支えない。日程ルールは企業に対する政府の要請であり、学生を縛る規則ではないからだ。授業や試験と重なるときは、大学のキャリアセンターに日程の相談先として入ってもらうと調整しやすい。
十月一日より前に受け取った内々定はどう扱われるのか。正式な内定日は十月一日以降とされているため、それ以前のものは企業側の採用意思の伝達という位置づけになる。だからこそ複数を保持したまま活動を続ける学生が多く、活動の長期化につながっている。
この仕組みは今後も続くのか。連絡会議は、二〇二八年度(二〇二九年三月)以降の卒業・修了予定者について、日程ルールの在り方に関するアンケート結果や実態を踏まえ、経済界や大学側と十分に議論して見直しの検討を進めるとした。大学等の代表で構成される就職問題懇談会は、採用選考活動を学期期間中には行わず、卒業・修了前年度の春休み以降の長期休業期間に行うべきだという考え方を示している。
内定辞退を妨げるような働きかけを受けたときはどこに相談すればよいのか。連絡会議の資料は、都道府県労働局とハローワークが学生からの相談を受け付け、相談者の意向も踏まえて事実確認のうえ適切に対処するとしている。大学のキャリアセンター等の窓口との事例共有も行われるため、学内と学外のどちらから入っても構わない。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
