アメリカの地方は移住でしか増えていない|非大都市圏4,622万人の内訳

人口の13.6%が「非大都市圏」に住んでいる

アメリカの地方政策を日本と比べようとすると、最初に単位がそろわない。米国農務省経済調査局(ERS)が2026年1月に公表した年次報告「Rural America at a Glance 2025 Edition」は、全米3,144の郡のうち1,958郡を「非大都市圏」として扱っている。2024年7月時点の非大都市圏人口は4,622万6,367人で、全米3億4,011万988人の13.6%にあたる。数値は報告書本体のPDFに出ている。

前年の13.7%から割合が下がっているが、これは非大都市圏の人口が減ったからではない。実数は13万4,540人増えていて、大都市圏の増え方がそれより大きかったために比率だけが下がった。日本の過疎地域の議論では「割合が下がる」と「人数が減る」がほぼ同時に起きるため、この二つが逆方向に動く例は読み落としやすい。

区分 郡の数 人口(2024年7月) 人口増減率 自然増減率 純移動率
全米 3,144 3億4,011万988人 0.97% 0.15% 0.82%
大都市圏 1,186 2億9,388万4,621人 1.08% 0.21% 0.87%
非大都市圏 1,958 4,622万6,367人 0.29% -0.23% 0.53%

郡という単位の大きさにも注意がいる。ERSは非大都市圏の郡の中に人口5万人までの都市が含まれうると説明しており、報告書では「rural」と「nonmetro」を同じ意味で使うと明記している。人口要件と財政力要件で地域を指定する日本の過疎地域とは、線の引き方そのものが違う。区分の定義はERSの分類の解説ページにまとまっている。

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増えた分は、外から来た人だけで説明がつく

2023年7月から2024年6月までの1年間で、非大都市圏の人口は13万4,540人増えた。内訳を見ると、出生から死亡を引いた自然増減は10万8,203人のマイナスである。これに対して転入から転出を引いた純移動は24万2,743人のプラスだった。足し引きの結果として増えているので、外から移ってきた人がいなければこの地域は減少に転じる。

大都市圏は構造が違う。自然増減が62万6,841人のプラス、純移動も254万3,376人のプラスで、両方が同じ向きに働いている。増減率にすると1.08%と0.29%で、3.7倍の開きがある。非大都市圏の増加は2021年に始まり、2024年まで4年続いた。2010年から2020年までは増減率がゼロ近辺かマイナスで推移していたため、ここ数年の動きは長期の傾向からの転換にあたる。

郡ごとに見ると、2023年から2024年のあいだに純流入になった非大都市圏の郡は67%だった。3分の2が流入側に回ったことになるが、残る3分の1は流出のままである。報告書は2023年の増減率0.37%が2022年の0.14%を倍以上に上回ったことにも触れており、自然減の縮小と流入の両方が効いたと説明している。移動の効果だけを切り出すと日本の転入超過12万人と過疎885市町村の読み方とつながる論点になる。

郡の経済の型によって、人の動きは逆を向く

同じ非大都市圏でも、その郡が何で食べているかで移動の向きが変わる。ERSは郡を産業の構成で分類しており、2025年版のCounty Typology Codesを使って型別の純移動率を出している。観光やアウトドアなど余暇に依存する「レクリエーション型」の郡は、コロナ禍の最初の2年である2020年と2021年に特に高い流入を示し、2024年まで大都市圏を上回る水準を保った。ただし2022年以降は率そのものが下がり続けている。

農業に依存する郡は、同じ期間を通じて純移動がほぼゼロで動いていない。鉱業に依存する郡は2020年から2022年まで流出で人口を減らし、2023年と2024年にわずかな増加へ転じた。流入が起きた郡と起きなかった郡の差は、政策の手厚さではなく、その土地が何を売っているかに沿って現れている。

日本に置き換えると、観光地を抱える市町村と農業中心の市町村で関係人口の増え方が違う、という話に近い。ただし比較の順番を間違えないほうがよい。アメリカの数字は「型ごとの平均値」であって、個別の自治体の成否ではない。海外の事例を日本の施策の根拠に使うときの限界は海外の地域再生に学ぶ際の手法と限界でも整理されている。

仕事は増えたが、増え方には偏りがある

雇用の側を見る。2023年から2024年にかけて、非大都市圏に住む人の就業者数は0.6%増えて2,000万人になり、コロナ禍前の2019年の水準を上回った。その前の2020年から2023年は年平均1.6%、人数にして年31万5,000人の増加だったため、伸び方はコロナ禍前の緩やかな水準に戻ったことになる。失業率は年平均で3.7%から4.0%へ上がったが、リーマン危機後の景気拡大期のどの年よりも低い。

産業別の構成は入れ替わりつつある。2024年の非大都市圏の雇用で最も大きいのは医療・社会支援で14.1%、次が製造業の13.3%だった。製造業は2023年から2024年にかけて雇用が減っており、40年続く減少傾向の延長にある。それでも2位を保っているのが地方の雇用の特徴で、報告書はこの産業が依然として主要な雇い主だと書いている。医療・社会支援は20年以上にわたって伸び続けている分野である。

年齢で切ると別の像が出る。25歳から54歳の就業率は10年間で4.7ポイント上がって76%になった。大都市圏は4.4ポイント上がって81%なので、差は5ポイント残っている。この上昇の中身は、その年齢層の就業者が約46万4,000人増えた一方で、その年齢層の住民自体が約44万1,000人減ったという組み合わせである。25歳から34歳の流出と、団塊世代がこの年齢層を抜けたことが重なった結果で、「就業率が上がった」ことと「働き手が増えた」ことは同じではない。

所得の差は20年ちかく縮まっていない

人口が増えても、都市との所得差は動いていない。物価を2023年の水準にそろえた世帯所得の中位値は、非大都市圏が2014年の5万2,872ドルから2023年の6万459ドルへ7,587ドル、14.3%伸びた。大都市圏は6万9,561ドルから8万1,270ドルへ1万1,079ドル、16.8%の伸びである。差額は2014年の1万6,688ドルから2019年に2万599ドルまで開き、2021年以降はおよそ2万800ドルで動かない。

生活費の安さを織り込んでも差は残る。非大都市圏の生活費は2023年の全国平均より12%低いと推計されており、これを戻すと6万459ドルは全国平均の物価水準で6万8,531ドルに相当する。全国の世帯所得中位値7万7,719ドルとはなお9,188ドルの開きがある。州単位で見ると、非大都市圏部分の実質所得はルイジアナ州の5万5,179ドルからコネチカット州の8万8,513ドルまで分かれていた。

貧困の側も同じ構図である。2024年に貧困状態にあったのは非大都市圏で約590万人、率にして13.7%だった。これは過去25年で最も低い水準の一つで、2022年の15.0%・650万人から1.3ポイント下がっている。それでも大都市圏の10.2%とは3.5ポイントの差がある。貧困率20%以上の「高貧困郡」は2023年に非大都市圏で370郡あり、2022年の403郡から減った。うち30%以上は49郡で、こちらも58郡から減っている。全米の高貧困郡455郡の89.1%が非大都市圏に集まる状態は変わっていない。

家計の負債比率には逆の傾向が出る。2024年に負債が所得に対して低い水準の郡は非大都市圏で33.5%、高い水準の郡は23.8%だった。大都市圏では高い郡が41.4%、低い郡が19.4%で、順番が入れ替わる。所得が低い地域ほど家計が借金を抱えているとは限らない、という結果である。就職先の選び方として海外の数字を並べるなら、若年失業率4.0%と就職率98.0%の比較のように入口の制度から見るほうが筋が通る。学生のうちから地域との関わりを探す場としてはFLASPOのような整理のされた入口から当たるとよい。

よくある質問

この記事の数字はどこから取っていますか

すべて米国農務省経済調査局の年次報告「Rural America at a Glance 2025 Edition」(Economic Information Bulletin 295、2026年1月)からである。報告書はERSの刊行物ページに置かれていて、本文のPDFも同じ場所から開ける。人口は商務省センサス局の推計、雇用は労働省労働統計局、所得と貧困はセンサス局の調査が元になっている。

「非大都市圏」は日本の過疎地域と同じものですか

違う。非大都市圏は郡を単位に、大都市圏に属さないという消去法で決まる区分で、中に人口5万人規模の都市が入ることもある。日本の過疎地域のように人口の減り方と財政力の数値で指定し、指定を受けた団体に財政措置が付く仕組みではない。面積も1郡が日本の市町村より大きいことが多いため、同じ「地方」という言葉で比べると実態がずれる。

人口が増えているなら、アメリカの地方に課題はないのですか

増えているのは移動による部分だけで、出生と死亡の差は4年続けてマイナスである。所得の差は2021年以降ほぼ固定され、高い貧困率を抱える郡も南部に偏って残っている。製造業の雇用が減り続けている点も変わっていない。人数が増えたことと、地域の条件が改善したことは別に数えたほうがよい。

日本の施策と比べるとき、どこに注意すればよいですか

この報告書は政策の効果を測ったものではなく、人口・雇用・所得・貧困の現況を並べた統計である。だから「この政策が効いた」という読み方には使えない。使えるのは、自然減をいくらの流入で埋めているか、都市との差が開いたか縮まったかという比率の比較である。日本側で同じ指標をそろえてから並べると、議論が噛み合いやすくなる。

レクリエーション型の郡が伸びたのは観光政策の成果ですか

報告書はそこまで踏み込んでいない。読み取れるのは、余暇に依存する郡の純移動率がコロナ禍の初期に跳ね上がり、その後は下がりながらも大都市圏より高い水準を保ったという事実までである。在宅勤務の広がりという別の要因も同じ時期に重なっているため、観光の施策だけを理由に挙げるのは早い。


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