2023年度に開業率と廃業率が同じ数字で並んだ
地域で店や事業を始めた人の話を聞くと、成功した側の記録ばかりが残っていることに気づく。辞めた側の数は統計にしか出てこない。2025年版の小規模企業白書は、厚生労働省の雇用保険事業年報をもとに開廃業率の推移を示している。2023年度の開業率は前年度から横ばいの3.9%で、廃業率は前年度から上昇して3.9%になった。開業と廃業が同じ水準で並んだ年である。
開業率は1988年度をピークに下がり、2000年代を通じてゆるやかに戻したあと2018年度から再び低下している。廃業率は2010年度から下がる傾向だったが、2022年度にわずかに上昇し、2023年度でさらに上がって開業率に追いついた。事業が生まれる速さと消える速さが同じになると、地域の事業所の総数は増えない。起業を考える側から見れば、入ってくる人数と出ていく人数が釣り合う市場に入ることになる。
この3.9%という数字は雇用保険の適用事業所をもとにした割合で、個人事業主の開業や法人登記だけを数えたものとは一致しない。失敗を数える目的で見るなら、倒産や休廃業の実数と組み合わせて読む必要がある。割合だけでは何件が消えたのかが見えないからである。
倒産と休廃業・解散は別の数字として数えられている
事業をやめる形はひとつではない。白書は倒産件数と休廃業・解散件数を別の図で扱っている。倒産件数は2009年以降減る傾向にあったが2021年を底に増加へ転じ、2024年には10,006件になった。従業員規模別では「4人以下」の企業が大半を占める。要因別では人手不足に関連するものに加えて、物価高を理由とした倒産の件数も増えている。
| 区分 | 2024年の件数 | 直前の動き | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 倒産 | 10,006件 | 2021年を底に増加 | 従業員4人以下が大半、人手不足と物価高が要因 |
| 休廃業・解散 | 約7万件 | 2023年に増加へ転換 | 小規模事業者の割合が一貫して9割超 |
件数の規模が7倍違う点が重要である。休廃業・解散は2024年に約7万件で、近年は減る傾向にあったものが2023年に増加へ向きを変えた。企業規模別の構成比を見ると、休廃業・解散した企業に占める小規模事業者の割合は一貫して9割を超えている。地域で小さく始めた事業がやめるときは、裁判所が関わる倒産ではなく、自分でたたむ休廃業・解散の形になるほうが圧倒的に多い。
なお白書は、倒産件数が前年より増えた2022年から2024年の完全失業率が2.6%、2.6%、2.5%で、2021年の2.8%と比べて横ばいだと注記している。倒産が増えても失業率が動いていない。従業員の少ない事業者が静かに入れ替わっている状況だと読める。休廃業・解散の件数の集計は帝国データバンクの定義によるもので、調査によって件数や傾向が変わる点にも触れられている。
黒字のまま辞めた企業が51.1%を占めている
やめた理由を赤字だと考えると、対策を取り違える。休廃業・解散した企業の損益別構成比を見ると、黒字の状態で休廃業・解散に至った企業の割合は2024年で51.1%ある。減少する傾向にはあるが、それでも過半数を占めている。つまり事業として採算が取れていても、やめる選択をした企業が半分以上あったことになる。
企業規模で分けると中身が変わる。中規模企業では黒字の割合が2019年をピークに下がり、2022年には半数を割ったが、足下では再び過半数に戻った。小規模事業者では逆に、赤字の状態で休廃業・解散に至る割合が2023年に半数を超え、2024年も赤字が過半数を占めている。小さく始めた事業ほど、採算が合わなくなってからやめる形に寄っている。
黒字でやめる理由として白書が示すのは経営者の年齢である。休廃業・解散した企業の経営者年齢は、70代と80代以上の割合が2016年と比べて増え、ピーク年齢も平均年齢も上昇している。後継者難倒産の件数も、足下で若干減ったとはいえ直近数年のなかでは高い水準にある。70代以上の経営者のおよそ2割は事業承継を希望しながら後継者が未定で、別のおよそ2割は事業承継を検討していないと答えている。採算ではなく引き継ぐ相手がいないことで終わる事業が、相当な量で存在する。
人口が減る地域ほど小規模事業者の比重が上がる
失敗の確率は、どこで始めるかによっても変わる。白書は市区町村を人口増減率で四つの区分に分け、区分1を人口減少率が最も高い地域としている。区分4から区分1に向かうにつれて、その地域の従業者全体に占める小規模事業者の従業者の割合が高くなる。付加価値額に占める小規模事業者の割合も同じ方向に動く。人が減る地域では、地域経済を小さな事業者が支える構造になっている。
商圏の広さも違う。区分1の地域の小規模事業者は、主な商圏範囲を「同一市区町村」と答えた割合が高い。経営判断を行う際に地域社会や地元住民の意見を「強く重視する」または「ある程度重視する」と答えた割合も、区分1が他の区分より高かった。顧客も従業員も同じ市区町村から来るため、地域での評判が売上に直結する。都市部で通る商売の組み方がそのまま持ち込めない理由がここにある。
期待される役割も地域で違う。商店街に期待されていると思う役割を聞くと、三大都市圏では「治安や防犯への寄与」が最も高く、地方圏では「地域住民への身近な購買機会の提供」が最も高い。支援機関や地方公共団体の側では、どちらの圏でも「地域の賑わいの創出」が最も高く、地方圏ではさらに「創業機会の提供」や「地域情報発信の担い手」も挙がる。地方圏の商業集積は、店の集まりというより生活基盤として見られている。
失敗の確率を下げる順番は資金と計画に寄っている
始める側の年齢層は若い。日本政策金融公庫総合研究所の2024年度の調査では、起業家のおよそ4割が29歳以下だった。全国の18歳から69歳までを対象に2024年11月時点の状況を聞いたもので、事前調査は34,946人、詳細調査は2,572人である。起業に関心はあるがまだ起業していない層に理由を聞くと、「自己資金が不足している」が最も多く、次に「失敗したときのリスクが大きい」、「ビジネスのアイデアが思いつかない」が続いた。
実際に創業した事業者が重要だったと答えた取組は、創業の前後どちらでも「運転資金の確保」が最も多い。創業前は事業計画の策定や事業用設備等の取得、創業後は人材確保や経営スキルの向上が比較的高くなる。創業時に活用した支援では、およそ4割が創業融資を挙げ、補助金を使った事業者も1割を超えた。「特に支援等は活用していない」と答えた事業者は半数を下回っている。そして融資する側では、およそ8割の金融機関が創業資金の融資にあたって「事業計画」を最も重視すると答えた。
支援の受け皿は厚くなっている。商工会・商工会議所、よろず支援拠点、金融機関、地方公共団体のいずれでも、創業支援の優先度が「高まっている」と答えた割合が半数を超えた。内容は機関ごとに分かれ、商工会・商工会議所は事業計画のブラッシュアップと税務・法務関連の相談、よろず支援拠点は事業計画のブラッシュアップと販路開拓、金融機関は出融資、地方公共団体は補助金や助成金の設置に取り組む割合が高い。京都府宇治市の産業交流拠点「うじらぼ」は、2024年11月時点の会員が270人強、2023年度の利用者が2,600人、約60回のイベントに延べ1,600人が参加し、市の創業件数は2016年度の25件から2023年度の88件へ増えた。開業率3.8%と都道府県で2.6倍開く差を踏まえて場所を選び、起業支援金43道府県の条件で資金の筋を確認し、一次産業の起業が6年目で開く差のように業種ごとの時間軸を見ておくと、失敗の形を先に知ったうえで始められる。地域での関わり方から順に考えたい場合はFLASPOも入口になる。
よくある質問
開業率と廃業率はどこの数字ですか
厚生労働省の雇用保険事業年報をもとに、2025年版小規模企業白書の第1部第1章第8節が示している。2023年度は開業率3.9%、廃業率3.9%である。雇用保険の適用事業所を母数にした割合のため、個人事業の開業をすべて拾った数字ではない。
倒産と休廃業・解散はどう違いますか
倒産は支払いが行き詰まって法的な手続や取引停止に至った状態を数えたもので、2024年は10,006件だった。休廃業・解散は事業主の判断で事業を終える形を含み、2024年は約7万件ある。地域の小さな事業者がやめる場合は後者に入ることが多く、休廃業・解散した企業の9割超が小規模事業者である。
黒字なのにやめる企業が半分もあるのはなぜですか
白書が挙げる主な背景は経営者の高齢化と後継者の不在である。休廃業・解散した企業の経営者年齢は70代と80代以上の割合が2016年より増え、平均年齢も上がっている。70代以上の経営者のうちおよそ2割は承継を望みながら後継者が決まっていない。採算が合っているかどうかとは別の理由で事業が終わっている。
地方で始めるほうが失敗しやすいのですか
白書の分析からは、失敗しやすいかどうかではなく、前提が違うと読むほうが正確である。人口減少率が高い地域では小規模事業者が従業者と付加価値の多くを担い、商圏は同一市区町村にとどまりやすい。顧客と従業員が同じ地域から来るため、地域社会の意見を重視する経営になる。小さい市場で評判に依存する商売になることを前提に組み立てる必要がある。
最初に用意しておくべきものは何ですか
運転資金と事業計画である。創業した事業者が創業前後ともに最も重要だったと答えたのは運転資金の確保で、融資する金融機関のおよそ8割は事業計画を最も重視している。起業に踏み切れない理由の最多も自己資金の不足だった。計画の作り込みは商工会・商工会議所やよろず支援拠点が支援に取り組んでおり、2025年版白書の第2部第1章第2節に支援内容の分布が載っている。
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