任期を終えて起業した2,296人の多くは物を売る側にいる
三年の任期が終わり、同じ町で商売を始める。そのとき最初に考えるのは売り先である。人口が数千人の町で、地元の客だけを相手にして回る業種は限られる。総務省の令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について(令和8年4月24日公表)を見ると、令和2年4月から令和7年3月までに任期を終えた8,762人のうち6,163人が同じ地域に残り、活動地と同じ市町村に定住した5,038人のうち2,296人が起業している。
起業の内訳で目立つのは、飲食サービス業308名、宿泊業181名、小売業174名、観光業130名、6次産業101名という並びだ。古民家のカフェ、農家民泊、パン屋、猪や鹿の食肉加工。どれも商品か体験を売る業種である。そして町にはもうひとつ、外に向かって商品を出す窓口がある。ふるさと納税の返礼品だ。
ただし自分の商品を返礼品に入れてもらうのは、役場に頼めば済む話ではない。地方税法の指定制度があり、返礼品は地場産品でなければならないという基準が総務大臣の告示で定められている。そして令和8年10月から始まる指定対象期間に向けて、この基準の運用が変わった。変わった部分の多くは、作り手に手続きが回ってくる形になっている。
返礼品になる条件は告示第5条のどれかに当たること
基準の骨格は古くからある。総務省のふるさと納税指定制度の基準(告示)について(平成31年3月26日)によれば、地場産品に関する基準は告示第5条に置かれ、第1号から第9号までのいずれかに該当すればよい。物品は第1号から第6号、サービスは第7号、近隣の自治体が共同で出す共通の返礼品は第8号、被災した団体の代替品は第9号という割り振りになっている。
| 区分 | 対象 | 中身 |
|---|---|---|
| 第1号〜第6号 | 物品 | 区域内での生産、原材料や加工の一部が区域内、自治体のオリジナルグッズなど |
| 第7号 | サービス | 区域内で提供される役務 |
| 第8号 | 共通返礼品 | 近隣の地方団体が共同で共通の返礼品等とするもの |
| 第9号 | 代替品 | 被災した団体が提供する地場産品の代替品 |
任期後に始める事業で関わりが深いのは、物品の第3号と、サービスの第7号である。第3号は区域内で製造や加工を行うことによって返礼品の価値の過半が生じているもの、という組み立てだ。原材料を他県から仕入れても、町の中で加える手間が価値の半分を超えていれば地場産品になる。ツアー案内や文化体験は第7号で読む。地場産品ルールと3割基準の全体像を先に見ておくと位置関係がつかみやすい。
2026年10月から、価値の過半を証明するのは作り手になる
ここが今回の変更の中心である。総務省が令和7年6月24日に公表したふるさと納税の指定基準の見直し等では、第3号の運用が二点変わった。ひとつは付加価値の割合を価格に基づいて算出することを原則とすること。もうひとつは、価値の過半が区域内で生じたことを、製造や加工を行う者が証明することである。
これまでは算出の方法が自治体ごとにばらばらで、同じ製品を複数の団体が自分の地場産品だと主張できる状態があった。原材料費や人件費のどこを分母に置くかで答えが変わるからだ。価格で割る形に寄せれば、そのぶれが小さくなる。そのかわり、根拠を出すのは商品をつくっている側になる。
出した証明は公開される。自治体は寄附の募集を始める日までに、証明の内容を一覧にして公表しなければならない。つまり自分の商品の価値の半分が町の中で生まれていると、名前を出して書くことになる。仕入れ値と加工の手間を説明できる帳簿が、返礼品の登録の前提になったと考えたほうがよい。卒業後に事業を始めるときに使える公費と並べて、準備の時間を見ておきたい。
一般販売価格を書かせる改正が入った理由
証明書に書く項目はもうひとつ増えた。一般販売価格である。総務省が例として挙げているのは、米国産の高級ワインを6万円で輸入し、倉庫で保管しただけで6万円の付加価値がついたと説明して、返礼品として12万円で自治体に納める一方、一般の客には8万円で売っているという形だ。保管が価値の過半を生むという理屈も、納品価格だけが高いという状態も、どちらも実際に確認されていた。
そこで、付加価値基準で出す返礼品については、証明書に一般販売価格を併記して公表することになった。あわせて、合理的な理由なく一般販売価格より高い値で調達しないよう、別途通知が出される。返礼品の調達費用は寄附額の3割以内という上限があるが、分母になる値段そのものを膨らませる余地をふさぐ改正である。
作り手の側から見れば、店頭の値段と自治体への納品の値段を大きく離せなくなった、ということだ。返礼品は売り先として大きいが、卸値を自分で決められる相手ではない。任期中から値付けの根拠を整えておくほうが、後の交渉が楽になる。補助金で初期費用を薄くする手は起業補助金の対象期間と合わせて考えたい。
100万円以上の支払いは支払先ごとに公表される
もう一段、作り手に関わる変更がある。令和7年6月17日の資料によれば、自治体が募集費用として一の支払先に支払った額が年度で100万円以上になったとき、支払先の氏名または名称、住所、支払額、支払目的を一覧にして公表することになった。令和7年度の募集費用、つまり令和8年9月の公表分から適用される。
支払先が個人のときは扱いが分かれる。本人の同意がある場合を除いて、氏名と住所に代えて、これらを公表しない旨を記載する。個人事業で返礼品を納めている人の名前が、同意なく並ぶことはない。ただし法人にしている場合は名称と所在地が出る。この違いは、法人化の時期を考えるときの材料になる。
事務の側は逆に軽くなる方向だ。返礼品の確認件数は令和6年度の指定時で約100万件を超えていた。そこで令和7年の返礼品の事前確認で基準不適合がなかった団体、令和6年度で約1,200団体について、令和8年の指定手続から一部の書類の提出を省く。かわりに総務省が一部の団体を抽出して調べ、基準に疑いのある返礼品の通報窓口を置く。事前に止められる確率は下がり、後から外される確率が上がったと読める。地域で仕事をつくる段取りを広く見るならFLASPOもあわせて参照してほしい。
よくある質問
原材料が町の外のものでも返礼品になりますか。なり得る。第3号は区域内での製造や加工によって価値の過半が生じているかを見る基準なので、仕入れ先が外でも条件は満たせる。ただし食肉の熟成と玄米の精白については、原材料が自治体の属する都道府県の区域内で生産されたものに限ることとされている。
体験やツアーも返礼品にできますか。できる。サービスは第7号で扱われ、区域内で提供される役務が対象になる。任期後に観光業へ進んだ130名のような進路では、こちらが入口になる。
価値の過半はどうやって計算するのですか。令和8年10月からの指定では、価格に基づく算出が原則になる。仕入れた段階の価格と、自分の工程を経た後の価格の差が全体の半分を超えているかを見る形である。自治体ごとに違う計算が許されていた時期とは前提が変わるため、過去の例をそのまま当てにしないほうがよい。
自治体のロゴを入れたグッズは返礼品になりますか。条件が厳しくなった。自治体が広報の目的で自ら調達し、配布または販売した実績があることや、その計画を定めていることが求められる。返礼品として提供する数量が、その配布または販売の数量を超えないことも要件に入った。一般に売られている品に名前を刷っただけでは通らない。
返礼品に入れてもらう相談はいつ始めるとよいですか。任期中が望ましい。指定対象期間の初日は10月1日で、自治体は募集を始める日までに証明の内容を公表しなければならない。証明は作り手が出すものなので、原価と工程の記録を先に整えておく必要がある。商品が完成してから動き出すと、ひとつ先の期間まで待つことになる。
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