合併から20年で、人口と世帯が逆を向いた
自治体の規模を知りたいとき、国勢調査の5年ごとの数字より手早い資料がある場合がある。佐賀県神埼市は、毎月末を基準日とする人口・世帯数の推移を合併時から通して公表している。市は平成18年3月20日に神埼郡神埼町、千代田町、脊振村が合併して誕生し、その時点の人口は男16,244人・女17,693人の合計33,937人、世帯数は10,756世帯だった。
直近の令和8年9月30日は、男14,345人・女15,405人の合計29,750人、世帯数12,734世帯である。20年半で人口は4,187人減り、率にすると12.3%の減少になる。ところが世帯数は1,978世帯増えていて、こちらは18.4%の増加である。人口が1割以上減った地域で、世帯だけが2割近く増えた。
この二つの線が逆を向いている事実は、地域の課題を考えるときの前提を変える。住む人は減っているのに、住まいの単位は増えている。空き家が増える一方で住宅の需要も残る、という一見ねじれた状況が、同じ市の中で同時に進んでいる。
1世帯あたり3.15人から2.34人へ
二つの数字を割ってみると、何が起きたのかがはっきりする。合併時の1世帯あたり人員は3.15人だったが、令和8年9月末には2.34人になった。3人以上で暮らす世帯が標準だった地域が、2人台前半の地域に変わったということである。
| 基準日 | 人口 | 世帯数 | 1世帯あたり |
|---|---|---|---|
| 平成18年3月(合併時) | 33,937人 | 10,756世帯 | 3.15人 |
| 令和4年9月末 | 30,712人 | 12,249世帯 | 2.51人 |
| 令和5年9月末 | 30,479人 | 12,375世帯 | 2.46人 |
| 令和6年9月末 | 30,211人 | 12,458世帯 | 2.43人 |
| 令和7年9月末 | 29,955人 | 12,608世帯 | 2.38人 |
| 令和8年9月末 | 29,750人 | 12,734世帯 | 2.34人 |
直近5年だけを切り出しても、傾向は途切れていない。人口は令和4年9月末の30,712人から962人減り、世帯数は485世帯増えた。1世帯あたりの人員は毎年0.03人から0.05人ずつ落ちている。同居していた家族が別の世帯に分かれるか、あるいは単身の世帯が入れ替わりながら積み上がるか、どちらにしても世帯の小ささが進む方向である。
地域で何かを始めようとする人にとって、この数字は実務に関わる。たとえば回覧板や自治会の運営は世帯を単位に動くので、人が減っても単位の数は減らない。一世帯あたりの担い手は確実に薄くなっている。
毎年3月に、数十人が抜ける
月ごとの数字を並べると、1年のどこで人が動くかが見える。前月比が大きく落ちるのは決まって3月で、令和5年は56人減、令和6年は57人減、令和7年は32人減、令和8年は66人減だった。進学と就職の時期に転出が集まる形である。
興味深いのは、同じ3月に世帯数が増えていることだ。令和5年3月は32世帯、令和6年3月は30世帯、令和7年3月は75世帯、令和8年3月は32世帯の増加である。人が出ていく月に住まいの単位が増えるのは、出ていく人と入ってくる人が別々の世帯として記録されるためと読める。
4月の動きは年によって違う。令和6年4月は3人減、令和7年4月は12人減だったが、令和8年4月は57人増で世帯数も63増えた。転入が転出を上回った月が、近年の4月では初めて現れた。1か月の数字で傾向を語るのは早いが、転入側に何かが効いた可能性は追ってみる価値がある。
1年を通して足し合わせると、動きの大きさが分かる。令和7年3月末の30,052人から令和8年3月末の29,772人までの12か月で、人口は280人減った。この間に前月より増えた月は令和7年9月の1人増と10月の8人増の2か月だけで、残る10か月はすべて減少である。同じ12か月で世帯数は12,529世帯から12,643世帯へ114世帯増えた。
ところが令和8年度に入ってからの半年は、減り方が緩んでいる。3月末の29,772人から9月末の29,750人まで、6か月の減少は22人にとどまった。世帯数は同じ期間に91世帯増えている。4月の転入超過がそのまま効いている形で、このまま続くのか一時的な振れなのかは、年度後半の数字を待つことになる。
旧脊振村の区域は、過疎地域であり振興山村でもある
市の全域が同じ条件にあるわけではない。厚生労働省九州厚生局が示す令和8年3月1日現在の一覧では、佐賀県の過疎地域として「神埼市 旧脊振村」が挙がっている。一覧には、町村・地域名まで記載がある場合はその地域のみが過疎地域になるという注記があり、市全域ではなく旧脊振村の区域が対象だと読める。同じ資料の振興山村の欄にも、神埼市の脊振村が入っている。
この指定は制度の入口と直結している。地域活性化起業人の受入自治体は、三大都市圏外の市町村か、条件不利地域を持つ市町村などに限られており、過疎地域や振興山村はその条件不利地域に数えられる。都市部の企業人材を迎える枠組みや、地域おこし協力隊のような仕組みを使うとき、こうした指定の有無が前提条件になる。協力隊の分布は地域おこし協力隊の地域別ガイドにまとめてある。
平野部の市街地と、脊振山地側の集落では、人口の動きも暮らしの条件も異なる。市全体の平均値だけを見ていると、この差は見えなくなる。
学生が関わるとき、どこから手をつけるか
外から来る若い人にとって、この市はまず「知られていない場所」である。2024年度の実施分を調べた中学校の修学旅行の調査では、都道府県別の旅行先で佐賀は10件(0.6%)、総件数1,803件のうち20位だった。前回調査でも17件(0.9%)である。学校行事として訪れる機会がほとんどない県なので、学生が最初に接点を持つのは旅行以外の経路になる。
手がかりは市の公式サイトに置かれている。人口・世帯数は毎月更新され、空き家・空き地バンクの物件情報も公開されている。関わりを考えるなら、まずこの二つを突き合わせるのが早い。世帯が増え続けている一方で空き家の情報が出ているという状態が、どの地区で起きているのかを確かめるところから、できることの形が決まってくる。
佐賀県内では、学生のアイデアを地域の事業に変えた例もある。太良町での取組は若者のアイデア事業化として記録されている。住民として登録する手前の関わり方はふるさと住民登録制度と大学生で扱った。学生と地域の接点づくりに関心があれば、FLASPOの事例も参考になる。
よくある質問
神埼市の人口はどこで確認できますか
市が毎月末を基準日とする人口・世帯数の推移を公表している。合併した平成18年3月から直近まで、男女別・世帯数・前月比が1枚の表に並んでいるので、年単位の変化も月単位の動きも同じ資料で追える。
人口が減っているのに世帯が増えるのはなぜですか
同居していた家族が分かれて暮らすようになり、単身や2人の世帯が増えると、人口が減っても世帯数は増える。神埼市では1世帯あたり人員が3.15人から2.34人まで下がっており、この動きが数字に表れている。
市の全域が過疎地域ですか
そうではない。九州厚生局の一覧では、過疎地域として挙がっているのは旧脊振村の区域である。地域名まで記載がある場合はその地域のみが対象になると注記されている。
学生が地域の課題を調べるとき、どの数字から見るとよいですか
月ごとの前月比が使いやすい。3月に転出が集まり、4月の増減が年によって振れるという動き方が分かるので、どの季節に何が起きているかを押さえた上で聞き取りに入れる。
人口の減り方は年々きつくなっているのですか
単調に悪化しているわけではない。令和7年度の12か月では280人減ったが、令和8年度に入ってからの6か月では22人減にとどまっている。月単位で振れるため、1年分をまとめて比べるのが実態に近い。
佐賀県は修学旅行の行き先として少ないのですか
2024年度の中学校の調査では10件で、総件数1,803件に対する構成比は0.6%だった。上位は京都455件、奈良362件、東京178件と続いており、行き先は少数の府県に集まっている。
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