発信の前に、誰がSNSにいるのかを確かめる
町のアカウントを開設したものの、投稿が伸びないという相談は珍しくない。手を動かす前に押さえておきたいのは、SNSにいる人の分布だ。総務省が2026年5月29日に公表した令和7年通信利用動向調査の結果では、インターネットの利用目的のうち「SNS(無料通話機能を含む)の利用」が82.3%で最も高い。調査時点は令和7年8月末である。
注目すべきはこの82.3%が平均値であることだ。年齢階層別に開くと幅は大きく、13歳から49歳までは9割台に張りつく一方、年齢が上がるにつれて下がっていく。地域の情報を最も必要としている層が、必ずしもSNSの中にいるとは限らない。
| 年齢階層 | 令和7年 | 令和6年 |
|---|---|---|
| 全体 | 82.3% | 81.9% |
| 6〜12歳 | 42.8% | 40.9% |
| 13〜19歳 | 92.9% | 91.8% |
| 20〜29歳 | 93.1% | 95.0% |
| 30〜39歳 | 90.6% | 91.4% |
| 40〜49歳 | 91.3% | 90.1% |
| 50〜59歳 | 86.4% | 85.4% |
| 60〜69歳 | 78.3% | 77.5% |
| 70〜79歳 | 67.9% | 66.0% |
| 80歳以上 | 54.3% | 51.3% |
80歳以上でも5割を超えている点は見落とせない。ただし20歳代は前年の95.0%から93.1%へわずかに下がった。若い層が自動的に増え続けるという前提で設計すると、数年で足元が崩れる。
SNSは情報を探す場として何番目か
同じ調査には利用目的の内訳も載っている。最も多いのは「従来からの知人とのコミュニケーションのため」で86.6%。次が「知りたいことについて情報を探すため」の66.0%だった。情報収集は確かに2位につけているが、首位との差は20ポイントある。
以下は「ひまつぶしのため」36.8%、「災害発生時の情報収集・発信のため」23.7%、「新たな交流関係を広げるため」11.4%、「自分の情報や作品の発表のため」10.8%、「昔の友人・知人を探すため」3.6%と続く。発信する側が期待しがちな「新しい出会い」や「作品の発表」は、使う側の動機としては1割前後にとどまる。
この構図は、地域のアカウントが何をすれば読まれるかを示している。知らない町の知らない行事を、知人との連絡のために開いたアプリの中で見てもらうことになる。関心のない人の画面に割り込む行為である以上、1投稿で完結する情報か、既に関心のある人が検索でたどり着ける形かのどちらかが必要になる。
災害時の利用が前年の26.5%から23.7%へ下がったことも、運用の判断材料になる。平時のにぎわいづくりと非常時の連絡手段を同じアカウントに背負わせる設計は、どちらの役割も薄くなりやすい。地方創生の制度や考え方の全体像は地方創生とは?2025年最新「地方創生2.0」まで若者向けにわかりやすく解説で整理している。
インフルエンサーに頼むとき、規制は誰にかかるのか
発信が伸びないとき、次に検討されるのが影響力のある発信者への依頼だ。ここで必ず確認しておきたいのが、令和5年10月1日に施行されたいわゆるステルスマーケティング規制である。根拠は令和5年内閣府告示第19号「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」で、景品表示法上の不当表示として指定された。
規制の対象は依頼する側の事業者である。消費者庁のステルスマーケティングに関するQ&Aでは、インフルエンサーやアフィリエイターは広告主から依頼を受けて投稿する場合でも原則として対象外とされている。広告主と共同で商品等を供給しているような例外的な場合に限り、発信者側も対象になる。
では何をもって「事業者の表示」と判断されるのか。第三者の投稿であっても、事業者が表示内容の決定に関与していれば事業者の表示に当たる。明示的な依頼や指示がなくても、やり取りの内容、対価の内容とそれを提供した理由、取引関係の有無と継続性などから、自主的な意思による表示内容と認められない関係性があるかが問われる。
観光協会や自治体が謝礼を払って投稿を頼む場面は、この判断の真ん中にある。「指示していないから大丈夫」という自己申告は基準になっていない。対価を渡した事実と、そこに至る関係のつくり方が見られる。
「PR」の書き方で足りる・足りないの線
明示が必要になった場合、書き方にも細かい基準がある。消費者庁のQ&Aでは「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」と表示する方法に加え、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章での記載も認められている。一方で、所属を明らかにするだけでは足りないとされる。
置き場所の指定もある。投稿の本文ではなくリプライにのみ記載する形は、通常は明瞭といえない。動画の場合は冒頭だけでなく全体を通じて明瞭にしておくことが望ましいとされている。短尺動画を途中から再生する視聴者を想定した基準だと読める。
| 場面 | 取り扱い |
|---|---|
| 内容の指示をせず試供品を配り、投稿を依頼 | 通常は事業者の表示に当たらない |
| 内容を指定しない投稿キャンペーンへの応募 | 通常は事業者の表示に当たらない |
| 依頼を受けず自主的に良さを投稿 | 通常は事業者の表示に当たらない |
| 個別に依頼し報酬を支払う | 明示が必要 |
| 星5の評価などを条件とするレビュー | 明示が必要 |
| 特定の感想を書くことを応募条件とする | 明示が必要 |
| 好意的な意見だけを抜粋して掲載 | 明示が必要 |
施行前に依頼した投稿が施行後も表示され続けている場合も明示が必要とされる点は、過去の企画を抱える自治体ほど確認が要る。文章そのものの気をつけ方はライティングと炎上対策|SNS・ブログで燃えないための文章の書き方も参考になる。
続く発信にするために現場が決めていること
運用を人の熱意に預けると、担当が変わった時点で止まる。総務省が公表した令和7年度の地域活性化起業人1,215人のうち、広報業務を担うのは50人。数は多くないが、そこで何が行われているかは参考になる。熊本県多良木町では、副業型の起業人が町公式Instagramの開設に向けてガイドラインと投稿コンテンツの作成に携わった。
この事例で記録されているのは、開設そのものより運用手順を明確にした点だ。任期終了後も町で運用し続けられる体制づくりを実現したと整理されている。属人的な勢いではなく、誰が引き継いでも回る手順に落とすという判断で、発信を外部人材に頼む自治体が最初に設計すべきところだろう。
学生が関わる余地もここにある。企画を出して現地で形にする経験は、地域にとっては担い手の確保であり、学生にとっては実務の記録になる。FLASPOが佐賀県太良町と進めた学生観光PRアイデア実現プロジェクトのように、提案から実施までを通す形であれば、投稿の数ではない成果が残る。
同時に、受け取る側の警戒も強まっている。同じ通信利用動向調査では、インターネット利用時に不安を感じる人の割合が合わせて74.2%に達した。不安の内容では「真偽の不確かな情報の閲覧、拡散」が21.6%で、前年の20.4%から上がっている。数字を出すなら出典を添える、誇張した表現を避ける、といった基本が信頼の分かれ目になる。
よくある質問
地域の発信を担当する立場からよく挙がる疑問を整理しておく。
高齢の住民にSNSで情報を届けられるのか。70歳代のSNS利用率は67.9%、80歳以上は54.3%で、半数は届く計算になる。ただし利用率はインターネット利用者に占める割合であり、インターネットを使っていない層はこの母数に入っていない。紙や回覧との併用が前提になる。
謝礼を払わずに投稿してもらえば規制の対象外になるのか。対価の有無だけで決まるわけではない。表示内容の決定に関与しているかが基準で、対価の内容と提供した理由、取引関係の継続性などが総合的に見られる。無償でも内容を指定していれば事業者の表示に当たり得る。
インフルエンサー本人が罰を受けることはあるのか。この告示に基づく規制の対象は事業者であり、依頼を受けて投稿した発信者は原則として対象外とされている。広告主と共同で商品等を供給している場合などは例外になる。
「PR」をハッシュタグに入れるだけで足りるのか。表示の方法として「PR」の記載は認められているが、本文ではなくリプライのみに置く形は通常は明瞭とはいえないとされている。多数のハッシュタグに埋もれる置き方は避け、投稿を開いてすぐ分かる位置に置くのが無難だ。
アカウントを作ったあと、何から決めればよいのか。多良木町の例で記録されていたのは、ガイドラインの作成と運用手順の明確化だった。誰が投稿し、誰が確認し、引き継ぎで何を渡すのかを先に決めておくと、担当交代で止まる事態を防げる。
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