同じ「支援」でも、出している相手が違う
地域で事業を起こそうと情報を集めると、補助金の公募要領の隣に「アクセラレーションプログラム」や「エコシステム」という言葉が並ぶ。どれも立ち上げを手伝う話に見えるが、出しているのが国なのか、自治体の連合体なのか、公的機関の個別事業なのかで、申し込む先も受け取れる中身も変わる。
前提として、起業の資金は一か所に寄っている。経済産業省が2026年3月16日の第2回スタートアップ政策推進分科会に提出した柱3:地域の経済社会を担うスタートアップの創出・育成では、2025年上半期の資金調達額のうち76.3%が東京都に集まっていた。以下は神奈川県3.7%、山形県3.0%、大阪府2.2%、愛知県2.1%で、残る12.7%をそれ以外の地域が分け合っている。
担い手の側は、そこまで偏っていない。同じ資料は、大学発スタートアップの約6割が東京都以外で創業していると書く。大学発の企業数は2024年度調査で5,074社となり、前年度調査から786社増えた。生まれる場所と集まる場所がずれている。公的なアクセラレータは、このずれを埋める目的で置かれていて、だから役割ごとに層が分かれている。
地域そのものを選ぶ枠組み
いちばん大きな単位で動いているのが、内閣府の「スタートアップ・エコシステム拠点都市」である。一社ずつではなく、自治体・大学・企業・金融機関が組んだコンソーシアムを国が選ぶ。第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市一覧を開くと、顔ぶれが分かる。
「グローバル拠点都市」が札幌・北海道、東北圏、東京圏、中部圏、関西圏、広島、北九州、福岡の8地域。これに「NEXTグローバル拠点都市」として北陸、長野×新潟、瀬戸内、熊本、沖縄の5地域が加わる。前者は海外のエコシステムと結んで世界的なネットワークを作る役、後者は地域の尖った産業構造を活かしながら海外にもつながる役と、置かれた期待が違う。
組み方にも二つの型がある。複数の都道府県域にまたがる自治体の量をまとめて発揮させる「広域都市圏型」と、核になる一都市の特異な強みを発揮させる「中核都市型」で、東北圏や関西圏は前者、札幌・北海道や福岡は後者にあたる。自分の住む県がどちらの枠に入っているかで、声をかけてくる相手が県庁なのか中核市なのかが変わってくる。
目標値も公開されている。札幌・北海道スタートアップ・エコシステム推進協議会は、2024年度末に142社だった累計スタートアップ数を2027年度末に225社、2029年度末に300社へ引き上げる計画を出し、資金調達も27件・255億円から250件・1,000億円へ伸ばすと置いた。仙台・東北のコンソーシアムは、アントレプレナーシップ育成プログラムの受講者を2,867名から50,000名へ広げる数字を掲げている。受け皿が増える前提で動いている、という読み方ができる。
会社を名指しで選ぶ枠組み
地域ではなく個々の企業を選ぶのが「J-Startup地域版」である。経済産業省が進めてきたJ-Startupを地域へ展開したもので、スタートアップ支援に積極的な自治体と組み、地域発の企業を選定する。
規模は先ほどの経済産業省資料に出ている。2026年3月9日現在で、J-Startup(J-Startup Impactを含む)が268社、J-Startup地域版が388社。地域版のほうが数の上では多い。選ばれた企業には政府の各種施策での加点が付き、J-Startup Supportersと呼ばれる支援企業群からの協力を受けられる。東京に集中しているヒト・モノ・カネを地方へ流し込む誘導路として設計されている。
裏を返せば、この層は「すでに事業がある会社」を対象にしている。創業前の人が最初に当たる窓口ではない。地域で何を事業にするかを探している段階なら、地域起業のアイデアはどう見つけるかで扱っている順番のほうが先に来る。
一社ずつ、一年つきあう枠組み
三つ目は、個別の伴走である。中小企業基盤整備機構が運営するFASTARは、創業前の起業家やシード期の企業を公募で選び、支援チームが約1年間つきあう。事業戦略、事業計画と資本政策の策定、知財戦略、組織形成までが対象になる。
実績の数字が、地域との関係をよく表している。第13期までの支援累計は180社で、そのうち東京以外の企業が124社、68.8%を占める。支援先の累計調達額は第1期から第8期までで約106億円とされている。採択を受けるほどではない段階でも、オンラインの経営相談がある。令和7年度は4月から1月までで1,942件、うち東京以外が1,684件で86.7%。令和6年度は通年で1,773件のうち1,438件、81.1%だった。地方比率が上がっている。
中小機構は本部のほか全国10か所に拠点を置き、登録した民間専門家とともに経営戦略・資本政策・資金調達・法務・財務・知的財産の相談に応じている。補助や融資とは性質が違う支えなので、地域起業の支援制度で整理しているお金の制度と、併せて組み立てることになる。
どれに当たるかは、今いる段階で決まる
三つの層を並べると、入口の違いがはっきりする。
| 層 | 選ぶ対象 | 出している主体 | 規模(公表値) |
|---|---|---|---|
| スタートアップ・エコシステム拠点都市 | 地域のコンソーシアム | 内閣府 | 第2期はグローバル8地域+NEXT5地域 |
| J-Startup地域版 | 個々の企業 | 経済産業省と連携自治体 | 388社(2026年3月9日現在) |
| FASTAR | 創業前・シード期の一社 | 中小企業基盤整備機構 | 第13期まで累計180社、うち東京以外124社 |
技術を事業にしたい場合は、別の入口もある。NEDOのディープテック分野での人材発掘・起業家育成事業(NEP)は、アイデアを形にする開拓コースが個人やチーム向けで最大300万円、ビジネスモデルを磨いて起業と資金調達を目指す躍進コースが法人向けで最大500万円、条件によって最大3,000万円まで用意されている。研究室の成果を持っている学生や研究者は、一般的な創業支援より先にここを見たほうが早い。
まだ会社がない段階なら、当たる先はFASTARか、その手前の経営相談になる。事業が動き出していて地域での知名度を上げたいならJ-Startup地域版、地域の側に立って場を作る仕事に関心があるなら拠点都市のコンソーシアムが主催する事業、という順になる。
学生の段階から入口はある。中小機構は令和7年度に起業家教育プログラムの実施を34校2,780人分支援し、経営者による出前事業は49校6,357人に届いた。高専発のスタートアップは全国で39社(令和6年度時点)、高専は全国に58校ある。学生が地域の事業に関わる道筋はFLASPOでも扱っているが、起業に限らず、まず地域の課題に触れる場を持っておくと、どの層に当たるべきかの判断が早くなる。
よくある質問
【アクセラレータとインキュベーターは何が違うのか】明確な法令上の定義はない。実務では、すでにある事業を短期間で伸ばす伴走をアクセラレータ、場所や設備を含めて立ち上げ期を支えるものをインキュベーターと呼び分けることが多い。FASTARは約1年という期間を区切った伴走なので前者にあたる。
【拠点都市に選ばれていない地域では支援を受けられないのか】そうではない。J-Startup地域版や中小機構の経営相談は、拠点都市の区域かどうかとは別の枠組みで動いている。経営相談の地方比率が86.7%に達している点からも、窓口が拠点都市に限られていないことが読み取れる。
【費用はかかるのか】公的なプログラムは参加費を取らない設計のものが多い。ただし採択には公募と審査があり、応募書類の準備に時間がかかる。無料であることよりも、選考に通るだけの事業の形ができているかどうかが先に問われる。
【地方にいると資金調達で不利なのか】調達額の76.3%が東京都に集まっているのは事実だが、公的な枠組みはその偏りを前提に組まれている。大学発スタートアップの約6割が東京都以外で生まれていることとあわせて読むと、不利なのは事業の数ではなく、投資家と出会う機会の量だと分かる。地域起業の現状で見た開業率の地域差も、同じ構図に重なる。
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