十年後の目標に、座席の話が入った
地域の将来を決める会議の写真を見ると、並んでいるのはたいてい中高年の男性である。これを問題だと書いた文書が、評論ではなく閣議決定として存在する。2025年6月13日に決まった地方創生2.0基本構想は、十年後に目指す姿を三つの文で示していて、その三つ目が「若者や女性が地域づくりの議論に参加している」だった。続けて、国及び地方公共団体における地方創生の議論の場において、若者や女性のそれぞれの人口比並みに若者や女性の構成員が参画している、と水準まで書き込んでいる。
人口比並みという言い方は、意見を聞く機会を設けるという話と性質が違う。二十代が人口の一割を占める自治体であれば、十人の委員のうち一人は二十代でなければ達していないことになる。達成を測れる形で書いてあるため、会議の名簿を見ればその場で検算ができる。残りの二つの文は、若者が地方で学びたい・働きたいと思える状態をつくり、東京圏から地方への若者の流れを倍増すること、そして性別にかかわらず働き続けられる環境をつくり、女性のM字カーブとL字カーブを解消することである。三つ並べると、前の二つが暮らしと仕事の話で、三つ目だけが決め方の話になっている。
座席が論点になった経緯
なぜ決め方が目標に入ったのか。基本構想は、十年続けた地方創生1.0について、若者や女性が地域から流出する要因へのリーチが足りなかったと整理している。地域に魅力的な職場がなかったこと、そして固定的な性別観にまつわるアンコンシャス・バイアスに有効に働きかけられなかったことを理由に挙げる。当事者の声も注釈に引かれていて、2025年4月25日の第1回地域働き方・職場改革等推進会議では、やりたい仕事がない、結婚・出産の圧力が息苦しい、地域で女性役割を求められるのが苦痛という意見が紹介された。
同じ注釈には、2025年3月31日に開かれた車座での発言も載っている。男性についても、男のくせに、一家の大黒柱なのだからという役割の期待が息苦しさになっているのではないかという指摘や、男性に稼ぎを依存せず女性が一人でも生計を立てられる仕事が地方にないのではないかという不安が出た。こうした声は、統計の集計からは出てこない。流出の理由を取り違えた原因が、そもそも当事者が決める場にいなかったことにあるという読み方が、座席の目標につながっている。政府文書としての反省の全体像は地方創生10年の反省は政府文書に書いてある|四つの論点を読むで扱った。
1.0と2.0で、何を変えると書いたのか
基本構想の姿勢は、六つの論点で前後が対比されている。並べてみると、若者に関わる変更が単独の施策ではなく、政策全体の構えの一部として置かれていることが見える。
| 論点 | 地方創生1.0 | 地方創生2.0 |
|---|---|---|
| 人口減少への認識 | 歯止めをかける取組に注力 | 続く事態を正面から受け止め、適応策も講じる |
| 若者や女性 | 雇用創出や子育て支援を進めたが流出が継続 | 意識変革と魅力ある職場づくりで残りたい・戻りたい地域をつくる |
| 稼げる地方 | 企業誘致や産業活性化を目指したが伸び悩み | 地域の資源を高付加価値化し、海外展開も進める |
| 新技術 | ICT活用やブロードバンド整備は限定的 | AI・デジタルを徹底活用し、ワット・ビット連携を進める |
| 都市と地方 | 移住支援を進めたが道半ば | 関係人口をいかし、人・モノ・技術の循環をつくる |
| 好事例の扱い | 市町村の取組が面的な広がりに欠けた | 普遍化と広域での展開を促進する |
注目したいのは移住支援の扱いである。1.0では都市から地方への人の流れをつくる手段だったものが、2.0では関係人口を通じた循環という言い方に変わった。移り住むかどうかの一点で成果を測るのをやめた、と読める。学生が地域に関わる形が、就職や移住の前段に広く認められる方向に寄っている。
数えることにしたのは、希望が実現した人の数
構想の次に来たのが戦略である。2025年12月23日、デジタル田園都市国家構想総合戦略を変更する形で「地方創生に関する総合戦略」が閣議決定された。対象期間は2025年度から2029年度で、各府省庁の具体的な事業を整理し、進捗の管理と検証のために工程表を作り、KPIを設定するという組み立てになっている。まち・ひと・しごと創生法が、総合戦略の策定にあたって実施状況に関する客観的な指標を設けるよう求めていることが根拠になっている。
政策目標は三つで、強い経済、豊かな生活環境、選ばれる地方である。三つ目の指標は、東京圏以外で暮らすことを希望し実現できている若者や女性の人数及び割合を2029年までに向上させること、と書かれた。希望そのものではなく、希望が実現した人を数える形になっている点が特徴で、地方に住みたいという意向が住まいの選択に結びつかない状態を測ろうとする指標だと読める。その下に並ぶ事業には、地域の働き方・職場改革の推進、女性の起業支援、地方大学・地域産業創生交付金、ふるさと住民登録制度、地方創生移住支援事業が挙がっている。
体制の側も動いた。2025年11月11日に内閣へ地域未来戦略本部が設置され、本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と地域未来戦略担当大臣が務める。総合戦略で整理した施策を基盤に、強い経済の実現に力点を置いた全体戦略としての地域未来戦略を2026年夏を目処に取りまとめるとされている。会議の名簿が目標に関わる以上、この夏の文書に誰が関わったかも見るべき対象になる。
学生が座れる席は、どこにあるか
では実際にどこへ行けば議論の場に入れるのか。総合戦略は各主体の役割を三つに分けている。国が人材支援・人材育成、情報支援とデジタルツールの整備、規制・制度改革、財政と金融による支援、広報周知と機運の向上を担う。市町村は地方創生を現場で中心的に担う主体として関係者を巻き込み、都道府県は市町村間の調整や補完、市町村の状況の可視化、国との連携を担う。地域の多様なステークホルダーについては、産官学金等が相互に連携して人材・資金・ノウハウをいかすこと、そして都市部にある企業や教育機関等も地方に目を向けて地域貢献を行うことが書かれている。
教育機関が名指しで入っているところが、学生にとっての足がかりになる。大学が自治体と結ぶ協定や、地方版総合戦略の策定・改訂にあたって置かれる会議が、人口比並みという目標が適用される場にあたる。委員の公募や意見交換の枠が出ていないか、自治体の企画課や政策推進課の公表資料を見るのが近道である。既にある受け皿の数と限界については住民不在の地方創生はどこで起きるのか|参加の受け皿を数字で確かめる、学生団体として関わるときの窓口は地方創生に関わる学生団体の入り口|自治体の推進組織と短期の枠にまとめた。地域での進路を探す段階であれば、FLASPOのような若者と地域をつなぐ場も併せて見ておくとよい。
よくある質問
人口比並みの参画には、法的な強制力があるのか。ない。基本構想が示すのは十年後に目指す姿であり、委員構成を義務づける規定ではない。ただ閣議決定された文書に水準として書かれているため、自治体に対して委員の年齢構成を尋ねる根拠にはなる。達していない場所で、達していないと指摘できること自体が変化である。
若者の定義は示されているか。基本構想は若者について年齢の範囲を定義していない。構想が転入超過を論じる場面では10代と20代をまとめて扱っており、人口比を計算するならこの区切りが一つの目安になる。自治体の会議で確かめるなら、何歳までを若者として数えているかを先に聞いておくと話が食い違わない。
総合戦略の指標は、いつ結果が出るのか。政策目標の指標はいずれも2029年を区切りにしている。地方創生に関する総合戦略は基本的に毎年末に改訂される建て付けで、フォローアップの結果が翌年の戦略に反映される。年末の改訂時期に公表資料を見ると、前の年の施策のどこが残り、どこが落ちたかを追える。
学生が関わるときは、どの政策目標に紐づけるのが自然か。地域で働く・暮らすことを扱うなら三つ目の選ばれる地方、事業づくりなら一つ目の強い経済、交通や医療といった生活の維持なら二つ目の豊かな生活環境にあたる。企画書を書くとき、自分の活動がどの目標のどの事業に連なるかを一行で示せると、自治体の担当者と話が噛み合いやすい。
出典は内閣官房「地方創生2.0基本構想」(令和7年6月13日閣議決定)、内閣官房地域未来戦略本部事務局「「地方創生に関する総合戦略」の概要について」(令和7年12月23日閣議決定分の概要)による。
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