地酒の町と関わる|1,562場まで減った蔵と関係人口2,263万人

蔵が減るとき、町から何が消えるのか

駅前の酒屋に地元の名前が付いた一升瓶が並んでいる光景は、どこの町でも当たり前のように見える。その当たり前が細っている。国税庁が令和7年5月に国家戦略特区のワーキンググループへ出した資料によると、清酒の製造場数は平成元年の2,459場から令和5年には1,562場へ、36パーセント減った。出荷量の落ち込みはさらに急で、昭和48年度の177万キロリットルに対し令和5年度は3割以下である。

1場あたりで見ると事態はもっとはっきりする。同じ資料は、1場に換算した消費数量が平成元年の547キロリットルから令和5年には250キロリットルへ、54パーセント落ちたと示している。場の数が減る以上の速さで、一つひとつの蔵が小さくなっているということだ。蔵は建物と道具と人の技が組み合わさって初めて動くので、いったん止まると同じ町に戻ることはほとんどない。消えるのは酒だけではなく、米の買い手であり、祭りの供給元であり、冬の働き口でもある。

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残っているのは、ほとんどが小さな蔵

全体の数字だけ見ていると、規模の偏りを読み落とす。令和5年度の内訳は次のとおりである。

製造規模 事業者数 事業者数の割合 出荷量の割合
大規模(年1千キロリットル超) 50者 3% 68%
中規模(100キロリットル超〜1千キロリットル以下) 398者 26% 25%
小規模(100キロリットル以下) 1,089者 71% 7%

事業者の7割が、市場の7パーセントを分け合っている。経営の体力にも差が出ていて、同じ資料では営業利益率が大規模41社で4.5パーセント、1千キロリットル未満の中小883社では0.2パーセントだった。製造業の平均が4.9パーセント、食料品製造業が2.7パーセントであることを思えば、ほとんど利益が残っていない水準である。町の名前を背負った蔵の多くはこの0.2パーセントの側にいる。関わり方を考えるとき、相手は余力のある組織ではないという前提から始めたほうがよい。

関係人口という言葉を数字に戻す

地域の側から見ると、外の人の関わりは制度の言葉で「関係人口」と呼ばれる。国土交通省が令和7年6月27日に公表した実態把握調査によると、全国の18歳以上の居住者およそ1億275万人のうち、関係人口に当たるのは約2,263万人、割合にして22パーセントである。内訳は現地を訪ねる訪問系が約1,884万人で18パーセント、訪ねずに関わる非訪問系が約379万人で4パーセントとなっている。有効回答118,963人のインターネット調査に基づく推計値だ。

関わり方の類型で最も多いのは趣味・消費型で、次いで参加・交流型、直接寄与型が続く。訪問の頻度は年2日から7日が49パーセントと半数を占め、年1日以下が20パーセント、年8日以上は31パーセントだった。移動手段は自家用車が58パーセントで最多である。この分布を地酒に重ねると、関係人口の最大の入口は「買って飲む」ところにあり、そこから先へ進む人は限られることがわかる。買う人は多いが、蔵の冬を一緒に越す人は少ない。

人の流れの向きも押さえておきたい。同じ調査の訪問系の流動では、三大都市圏以外の地域から同じく地方へ向かう動きが約763万人と最も大きく、首都圏の都市部から地方へは約293万人、首都圏の都市部から同じ首都圏内へが約222万人だった。地方を支えているのは都市の住民より、むしろ近隣の地方に住む人たちである。地酒の町に通う顔ぶれを想像するときも、まず近い県から考えるほうが実態に合う。

消費の外側に、関わりの余地がある

趣味・消費型が入口になること自体は悪い話ではない。問題は、その入口の先が用意されていない蔵が多いことである。販路を外に向ける動きは進んでいて、財務省貿易統計に基づく集計では、2024年の清酒の輸出金額は434億円で前年比5.8パーセント増、日本産酒類全体では1,337億円だった。ただし輸出で伸びているのは一定の規模を持つ蔵が中心で、年100キロリットル以下の蔵がそのまま乗れる話ではない。

国税庁が地域との意見交換で挙げた課題を見ると、小さな蔵が抱えているものがそのまま並ぶ。原料米の価格高騰による確保の難しさ、採算の厳しさ、地域の関係者との合意形成の未熟さ、品質を保つための技術と設備と体制の負担、そして市場が縮む中での過当競争への懸念である。どれも瓶を1本多く買えば解決する種類の問題ではない。人手と時間と、地域の中での調整が要る。関係人口に期待されているのは、まさにこの部分を薄く長く支える役回りである。

蔵が外の人に求めるものも変わってきている。先の意見交換では、地域おこしを進めるには関係者の合意形成が欠かせないのに、その状態が未熟だという指摘が出ていた。足りないのは客ではなく、蔵と農家と自治体と商店のあいだをつなぐ人である。外から来た学生が立場を持たないまま話を聞いて記録に残すだけでも、内側からは動かしにくかった部分が動き出すことがある。

学生が地酒の町に関わるときの現実

関わりを増やすために何が要るかも、同じ調査が聞いている。今後の関わりに必要な改善点の上位は、時間的な余裕の確保が27.4パーセント、移動や滞在の金銭的な負担の軽減が26.7パーセント、交通の利便性の改善が26.4パーセントだった。学生はこの三つをまとめて抱えやすい立場にある。長期休暇という時間はあるが、交通費と宿泊費の余裕はなく、車を持たない人も多い。だから最初から年に何度も通う前提を置かず、一度の滞在で何を持ち帰るかを決めてから行くほうがよい。

関わり方は飲むことだけではない。20歳未満は酒そのものに触れられないが、酒米を育てる田んぼ、瓶詰めや出荷の繁忙期、ラベルや売り場の設計、蔵のある町の催しの運営、産地の情報発信など、働く場面は冬だけに限らない。訪ねずに関わる非訪問系379万人という層があることも手がかりになる。遠方からでも続けられる関わり方の型は関係人口のオンライン事例に、一次資料の探し方は総務省の関係人口ポータルで一次情報を探すにまとめてある。受け入れ先を探す入口としてはFLASPOのような窓口も使える。

よくある質問

地酒を買い続けることは関係人口に当たるのか。国土交通省の整理では、現地を訪ねずに特産品を購入する関わりも非訪問系の関係人口に含まれる。買うことは立派な入口である。ただし小規模な蔵ほど売上の増減より人手と後継の不足が効いてくるため、継続して買う相手を決めることのほうが、一度に多く買うことより効く。

酒蔵で学生を受け入れてもらえるものか。繁忙期の作業や催しの運営で人手を求める蔵はある。ただし食品を扱う現場であり、衛生管理と安全の手順を守れることが前提になる。個別に連絡する前に、自治体の観光部署や地域の商工団体、酒造組合を通すほうが話が通りやすい。

20歳未満でも関われるか。飲酒はできないが、米づくり、瓶詰め、販売の企画、発信、催しの運営など関われる工程は多い。未成年者飲酒禁止法があるため、試飲や酒の提供を伴う場面には立たない形で役割を組むことになる。受け入れ側にも配慮が要るので、年齢は最初に伝えておきたい。

蔵の数が減るのは避けられないのではないか。出荷量が昭和48年度の3割以下まで落ちた以上、全ての蔵が残る前提は現実的でない。それでも1,089者の小規模な蔵が市場の7パーセントを支えているという構造は、数ではなく関わりの密度で残り方が変わることを示している。誰が通い続けるかで結果は変わる。


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