名前を知らない会社に、働く人の7割がいる
就職の話をしているとき、学生の口から出てくる会社の名前はせいぜい数十社に収まる。一方で、中小企業庁が令和3年経済センサス-活動調査を再編加工した集計によると、2021年6月時点の中小企業は336万4,891者あり、全企業337万5,255者の99.7%を占める。大企業は1万364者しかない。数字は中小企業庁の企業数・事業者数のページに出ている。
そこで働いている人数も見ておきたい。同じ集計では、従業者総数4,748万3,272人のうち3,309万8,442人が中小企業に属している。割合にすると69.7%で、おおまかに働く人の7割にあたる。常用雇用者に限っても4,139万951人中2,714万3,912人で65.6%になる。学生が名前を知らない側に、働く人の多数がいる。
ただし「中小企業」の幅は広い。中小企業基本法の定義では、製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、小売業は5千万円以下または50人以下、サービス業は5千万円以下または100人以下が中小企業にあたる。従業員250人の工場も、2人の設計事務所も同じ枠に入る。地方で学生が関わる相手は小規模企業(製造業その他は20人以下、商業・サービス業は5人以下)に近い規模が多く、その数は285万3,356者ある。
大企業の4割強が東京にあるという前提
地元で働くという選択を数字から見ると、地方には大企業がほとんどない。同じ集計の都道府県別の内訳では、全国1万364者の大企業のうち4,582者が東京都にある。44.2%が一都に集まっている。
| 都道府県 | 中小企業(者) | 大企業(者) |
|---|---|---|
| 東京都 | 419,013 | 4,582 |
| 大阪府 | 261,653 | 966 |
| 愛知県 | 195,313 | 599 |
| 北海道 | 131,874 | 242 |
| 青森県 | 35,887 | 42 |
| 鳥取県 | 14,623 | 18 |
| 全国 | 3,364,891 | 10,364 |
鳥取県の大企業は18者、高知県は19者、島根県は22者、秋田県は24者である。県内に数十社しかないものを目指すのか、数万者ある側から選ぶのかという違いは、就職活動の進め方をそのまま変える。地方で働くことを考えるなら、相手が中小企業になるのは自然な帰結である。
すると、知名度のない会社をどう判断するかという課題が残る。決算は公表されず、採用サイトは簡素で、口コミも集まらない。判断材料は自分で取りに行くしかないのだが、そこを手伝う機関は地域にある。金融機関がその役を担う場面は多く、地方銀行の中小企業支援の記事がその仕組みに触れている。
関わり方は4つの型に整理されている
企業と学生が接する催しは、長いあいだ名前がばらばらのまま使われてきた。2022年6月13日、文部科学省・厚生労働省・経済産業省が「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」を改正し、採用と結びつく条件が整理された。改正の内容は文部科学省の案内にまとまっている。
整理のもとになっているのは、採用と大学教育の未来に関する産学協議会がまとめた4つの型である。要点は二つある。4つのうち2つはインターンシップと呼ばないという線引きと、取得した学生の情報を採用に使えるかどうかが型によって違うという点である。
| 型 | 呼び方 | 就業体験 | 学生情報の採用活動への活用 |
|---|---|---|---|
| タイプ1 | オープン・カンパニー | 伴わない | 不可 |
| タイプ2 | キャリア教育 | 必須ではない | 不可 |
| タイプ3 | 汎用的能力・専門活用型インターンシップ | 必須(期間の半分を超える日数) | 基準を満たせば広報活動・採用選考活動の開始以降に限り可 |
| タイプ4 | 高度専門型インターンシップ(試行) | 必須 | 試行段階の枠組み |
タイプ3の基準は5つある。就業体験に実施期間の半分を超える日数を充てること、職場の社員が指導して学生に結果を返すこと、汎用的能力活用型は5日間以上で専門活用型は2週間以上であること、実施時期が卒業・修了前年度以降の長期休暇期間中であること、学生情報を活用する旨を募集要項に明示することである。地方の中小企業が学生を受け入れる形は、この基準に収まらない短い訪問やプロジェクト単位の協働が多い。
それが劣った機会だという話ではない。文部科学省の案内は、中小企業やスタートアップに対しても、就業体験を組み込んだインターンシップを自社の良さを伝える機会として前向きに検討してほしいと書いている。学生の側としては、採用の話とつながっているのか、現場を見る機会なのかを確かめておけば足りる。大学の単位になる形はまだ少なく、単位認定型は学生の2.0%という数字が出ている。応募の手順はインターンの応募方法の記事に整理した。
小さい会社で、学生の手が足りている場所
従業員が10人の会社に行くと、仕事が人に貼りついていることがすぐ分かる。経理も配送も見積もりも社長が見ていて、新しいことに手が回らない。そこが学生の入りやすい隙になる。頼まれやすいのは、商品写真の撮り直し、紙の台帳を表計算に移す作業、販路を広げるための調べもの、採用のための素材づくり、催事の運営あたりである。
規模の小ささは、見える範囲の広さに直結する。決裁の距離が近いので、提案した翌週に試されることもある。半年通えば、売上の立ち方と現場の段取りが分かる。大企業の配属で数年かかる視界が、小さい職場では早く開ける。
気をつける点は二つある。一つは報酬である。作業に従事して指揮命令を受ける状態になれば、名目が体験であっても賃金の対象になりうる。無給のまま継続的な作業に入る前に、どちらの立場で行くのかを確認したい。もう一つは授業である。繁忙期に合わせて来てほしいと頼まれる時期は、試験や実習と重なることが多い。
最初の接点は、商工会議所や商工会、自治体の産業振興の担当課、大学のキャリアセンター、地域の中間支援組織のいずれかから作るのが早い。企業に直接連絡するより、受け入れの経験がある窓口を通したほうが話が進む。FLASPOのように学生と地域の間に立つ仕組みを使えば、最初の一社を自分で探さずに済む場合もある。
就職に直結させる前に、離職率を見ておく
協働が楽しかったからそのまま就職する、という流れには落とし穴がある。厚生労働省が令和7年10月24日に公表した令和4年3月卒業者の離職状況では、新規大卒就職者の就職後3年以内の離職率は33.8%だった。これを事業所の規模別に見ると、差がはっきり出る。
| 事業所規模 | 大学卒の3年以内離職率 | 前年差 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 57.5% | 1.6ポイント低下 |
| 5〜29人 | 52.0% | 0.7ポイント低下 |
| 30〜99人 | 41.9% | 0.5ポイント低下 |
| 100〜499人 | 33.9% | 1.3ポイント低下 |
| 500〜999人 | 31.5% | 1.4ポイント低下 |
| 1,000人以上 | 27.0% | 1.2ポイント低下 |
5人未満の事業所では57.5%、1,000人以上では27.0%で、2倍を超える開きがある。数字は厚生労働省の報道発表に出ている。ただし規模だけで決まるわけではなく、産業別では宿泊業・飲食サービス業が55.4%、生活関連サービス業・娯楽業が54.7%と高い。小さい職場にはその産業の会社が多いという事情も混ざっている。
離職率が高いことは、悪い会社の証明ではない。仕事の幅が広く、合うかどうかが早く出るという面がある。学生にとって有利なのは、協働の期間中にその中身を自分で確かめられることである。新しく入った人に教える段取りがあるか、先輩が何年いるか、忙しい時期に人をどう回しているか。求人票からは読めないこの三つは、現場に数週間いれば見えてくる。
よくある質問
地方の中小企業はどこから探せばよいか。地域の商工会議所や商工会が会員名簿を公開していることが多く、自治体の産業振興課は地場の主要な事業者を把握している。大学のキャリアセンターに地元企業の枠があればそこが最短である。求人サイトだけで探すと、採用に予算を割ける会社しか出てこない。
無給で手伝ってよいか。見学や短時間の体験であれば謝礼なしの形もあるが、継続的に作業を担って指示を受けるなら話が変わる。実態が労働に近いのであれば賃金が支払われるべきで、交通費の扱いも含めて最初に書面で確認しておきたい。曖昧なまま始めると、辞めにくくなるのは学生の側である。
遠方の会社と関わることはできるか。資料の作成、調べもの、情報発信のような作業はオンラインでも進む。月に一度の訪問と日常のやり取りを組み合わせる形なら、学期中でも続けられる。ただし初回は現地に行ったほうがよい。工場や店の中を見ていないと、提案が机上のものになる。
協働の経験は選考で評価されるか。評価されるのは、やったことの大きさよりも、何を任され、どこで詰まり、どう直したかを説明できるかどうかである。小さい会社での作業は範囲が具体的なので、その説明がしやすい。社名の知名度がないことは、話の中身が具体的であれば不利にならない。
単位にできるのか。授業科目として開講されていれば単位になるが、個人で始めた協働が後から単位になることはまずない。先に大学の実習やプロジェクト科目の枠を調べ、そこに乗せられるかを教員に相談する順にすると、学業と両立しやすくなる。
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