三分の持ち時間に二十枚の資料を用意して登壇し、十二枚目でベルが鳴る。学生の発表でよく見る光景で、原因は準備不足ではない。事業計画書をそのまま読み上げる形で組んでいるために、時間の単位に合わせた設計になっていないだけである。持ち時間が変われば、入れるものも捨てるものも変わる。
事業計画書の朗読とは別の技術
ピッチという言葉は、短い時間で相手の関心を引き、次の面談につなげるための話し方を指す。重要なのは、その場で契約や採択を決めさせるのが目的ではないという点である。狙いは「もう少し詳しく聞きたい」と思わせるところまでで、すべてを説明し切る必要はない。
この前提を取り違えると、資料は網羅的になり、話は早口になる。審査員の側から見ると、情報が多いほど判断材料が増えるわけではなく、どこが肝なのか分からなくなる。だから削る作業そのものが評価対象に入ってくる。何を省いたかは、その企画で自分が何を一番大事だと考えているかの表明になる。事業計画の全体像を詰める作業と、三分で伝える形に落とす作業は、別の技術として練習したほうがよい。
この形式が学生の場に広がったのは、審査の回転を上げたい主催側の都合も関係している。一日で三十組を見るには、一組あたりの枠を短くするしかない。結果として、持ち時間は交渉の余地がない固定値として渡される。与えられた枠を所与の条件と受け止めて、その中で何を見せるかを決める作業が出発点になる。
持ち時間ごとに構成が変わる
配られる時間は一分から十分の幅で設定されることが多く、この差は分量の差ではなく構成の差である。一分の枠に五分の内容を詰めると全部が浅くなり、十分の枠を三分の内容で埋めると薄く見える。枠に合わせて作り直すのが前提になる。
| 持ち時間 | 必ず入れる | 削ってよい部分 | 想定される質疑 |
|---|---|---|---|
| 1分 | 誰の何の課題を、どう解くか | 市場規模、体制、収支 | それは本当に困っているのか |
| 3分 | 課題、解法、他との違い | 詳細な数値計画、沿革 | なぜ自分たちができるのか |
| 5分 | 上記に加えて誰にいくらで売るか | 技術の内部構造 | 最初の顧客はどこにいるのか |
| 10分 | 検証した事実と次の一手 | 一般論としての社会背景 | どの数字が仮説で、どれが実測か |
表のうち、一分と三分の枠で最初に捨てられるのが市場規模である。学生の発表では冒頭に大きな数字を置きたくなるが、短い枠では誰の困りごとかを示すほうが残る。十分の枠まで来ると逆に、検証していない話は持ちこたえられない。エントリーから提出までの実務はビジコンの応募方法に段階ごとの整理があるので、発表の設計と並行して押さえておきたい。
枠の長さを確かめるときは、質疑の時間が別に用意されているかも一緒に聞いておきたい。発表三分と質疑二分の設計なら、発表側では触れずに質疑で答える前提の項目を作れる。質疑がない形式なら、想定される問いへの答えを発表の中に織り込むしかない。同じ三分でも、後者のほうが詰め込む量は増える。
冒頭の三十秒で決まるもの
審査員は一日に十組も二十組も聞く。前の組の内容が頭に残っている状態で次が始まるため、最初の三十秒は内容を理解してもらう時間ではなく、聞く態勢に切り替えてもらう時間だと考えるとよい。自己紹介と団体名から入ると、この三十秒を名乗りに使い切ってしまう。
効くのは、具体的な場面から始める形である。誰がどこで何に詰まっているかを一文で置き、それが自分の観察から来ていることを示す。統計から入るより、目の前で見た光景から入ったほうが短い枠では強い。そのうえで解法を一文、違いを一文と続けると、三十秒で骨格が通る。名乗りは最後に回しても困らない。審査員が覚えておきたいのは団体名ではなく、何の話だったかである。
三十秒を作り込むには、声に出して書き直す工程が要る。黙読して通る文は、読み上げると長すぎることが多い。一文を二十五字から三十五字に収めると、息継ぎの位置が自然に決まり、聞く側も区切りを追える。紙の上で完成させず、口に乗せてから削るのが順序である。
審査員が聞いているのは数字の出どころ
質疑でつまずく場所は、ほぼ決まっている。資料に載せた数字が、どこから来たのか言えないときである。市場規模を兆円単位で示しておきながら出典を答えられないと、その後の説明全体の信頼が落ちる。逆に、小さくても自分で数えた数字は強い。十人に聞いて七人が困っていたという話は、推計の何兆円より具体に見える。
政策側の数字を押さえておくと、質疑の受け方が変わる。スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップへの投資額が2017年の3,600億円から2021年に8,200億円へ2.3倍になったとし、現在の8,000億円規模を2027年度に10兆円規模へ引き上げる目標を掲げている。将来的にはユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することも示されている。こうした背景を知っていれば、支援の枠がなぜ増えているのかを自分の言葉で説明でき、審査員の関心の向きにも合わせやすい。評価の軸そのものはビジコンの審査基準は何を見ているかに整理がある。
自分で数えた数字を用意する手間も、ここで割に合ってくる。学内で三十人に聞く作業は一日で終わるのに、質疑では最も強い材料になる。推計値を引くときは、出典の資料名と年次をメモに書いておき、聞かれたら即答できる状態にしておきたい。答えられない数字は、載せないほうが減点されない。
練習の積み方と当日の事故
原稿を覚える練習と、時間内に収める練習は別物である。暗記で臨むと、一度飛んだときに戻れない。有効なのは、各スライドで言うことを一文だけ決めておき、言い回しは固定しない形である。これなら途中で時間が押しても、文を削るだけで調整できる。
当日に起きる事故も織り込んでおきたい。接続の規格が合わずに資料が映らない、音声が出ない、前の組が延びて巻きが入る。どれも頻繁に起きるので、資料なしで話せる状態まで持っていけると強い。配布資料を紙で用意しておくと、映らないときの保険になる。発表の価値を賞金以外の面から整理したビジコンに出て得られるもの6つも、練習の動機づけとして読める。実際の企画を自治体と動かす段階まで進めたいなら、FLASPOのように実行の場を用意している取り組みを探す選択もある。
本番前の最後の確認は、持ち物より手順に置きたい。会場に入ってから登壇までに、受付、資料の受け渡し、接続の確認、待機という段階がある。どこで誰に声をかけるのかを事前に把握しておくと、直前の数分を発表の反復に使える。会場図と集合時刻が要項に載っているなら、当日の朝ではなく前日に目を通しておくことになる。
よくある質問
スライドは何枚が適切か。持ち時間一分あたり二枚から三枚が収まりの目安になる。ただし枚数より、一枚で言うことが一つに絞れているかのほうが効く。
原稿を読んでもよいか。読み上げると目線が落ちて伝達力が下がるため避けたい。手元には各スライドの一文だけを書いたメモを置く形にすると、視線を上げたまま進められる。
時間を超えたらどうなるか。多くの大会はベルで打ち切り、超過分は評価されない。減点規定を置く要項もあるため、練習では持ち時間の九割で終える構成にしておくと安全である。
チームの誰が話すべきか。一人が通して話す形が基本で、交代は切り替えのたびに流れが止まる。質疑は分担してよいので、専門的な問いに答える担当を決めておくと穴が減る。
緊張で早口になるのを防ぐ方法はあるか。最初の一文だけを決めた速さで言い切る練習をしておくと、そこで呼吸が整う。全体を通して速度を管理するより、冒頭の一文に絞って練習するほうが効果が出やすい。
審査員の目を見るべきか。全員を順に見ようとすると視線が泳ぐため、三方向に区切って順に向けるくらいで足りる。中央の一人に向けて話し続けるよりは、場全体に届いている印象になる。
落ちたあと何が残るか。短く伝える形に落とす作業は、就職活動の面接でもそのまま使える。三分で課題と解法を言える状態を一度作っておくと、別の場面で組み直す速さが変わってくる。
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