地元に残ると決めた後で、進路は二つに割れる
「東京には出ない」と決めている学生が、三年生の冬にまず当たる壁は、では具体的にどこを受けるのか、という問いである。地元に本社を置く会社の数は限られる。そこで多くの人の候補に残るのが、県庁や市役所といった自治体と、地域に根を張る銀行の二つになる。
この二つは「地元で働く」という点だけが共通していて、入り方はまるで違う。片方は筆記試験から始まる公的な選考で、日程も科目も先に公開されている。もう片方は民間の採用で、会社ごとに時期も形式も決める。同じ時期に両方を進めるつもりなら、違いを先に把握しておかないと準備の配分を誤る。
以下では、それぞれの受け皿がどのくらいの規模で、いま入りやすさがどちらに動いているのかを、公表されている数字で確かめていく。印象で語られがちな領域だけに、出どころのはっきりした値を土台に置きたい。両者の制度上の違いは国家公務員と地方公務員の違いの側でも整理している。
自治体で働く人は二百八十万人を超える
規模の感覚をつかむところから始める。総務省の令和7年地方公共団体定員管理調査結果によれば、二〇二五年四月一日現在、地方公共団体の職員数は二八〇万九二九八人である。このうち都道府県が一四二万八八六〇人で、全体の五〇・九%を占める。残りが市区町村などの側にあたる。
注意したいのは、この数字の大半が「役所の窓口で働く人」ではないことである。部門別に見ると、教育・警察・消防を合わせた人数が一五二万三六四人に達する。教員や警察官、消防職員がここに入るためで、いわゆる行政職のイメージとは重ならない。
| 区分 | 職員数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 職員数の合計 | 2,809,298人 | 100% |
| うち一般行政部門 | 950,628人 | 33.8% |
| うち教育・警察・消防部門 | 1,520,364人 | 約54% |
| うち公営企業等会計部門 | 338,306人 | 約12% |
一般行政部門は九五万六二八人で、全体の三三・八%にあたる。事務職として自治体に入ることを考えている人が実際に競うのは、二百八十万という総数ではなく、この層に近い。求人の規模を見積もるときは、どの部門の話をしているのかを先に切り分けておくと見誤りにくい。
競争率は十年単位で下がり続けている
「公務員は狭き門」という言い方は、いまの数字とはずれてきている。総務省の令和5年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果の概要によれば、二〇二三年度に実施された採用試験の受験者数は三九万九一九九人で、前年度から三万九四五二人減った。これに対して合格者数は八万六七五三人と、前年度より一九四九人増えている。
受験する人が減り、受かる人が増えれば、倍率は当然下がる。競争率は四・六倍で、前年度から〇・六ポイント落ちた。同じ調査の古い版をたどると、二〇一九年度の競争率は五・六倍で、受験者数は四四万一二六人、合格者数は七万八二八四人だった。
| 年度 | 受験者数 | 合格者数 | 競争率 |
|---|---|---|---|
| 令和元年度 | 440,126人 | 78,284人 | 5.6倍 |
| 令和4年度 | 438,651人 | 84,804人 | 5.2倍 |
| 令和5年度 | 399,199人 | 86,753人 | 4.6倍 |
調査の対象は都道府県四十七団体、指定都市二十団体、その他の市区町村一七二一団体である。全国をならした平均値なので、人気の高い都市部の自治体では話が別になる点は割り引いて読む必要がある。それでも、全体として採用側が人を確保しづらくなっている流れは読み取れる。社会人経験者を対象とした中途採用でも、二〇二三年度の採用者は一万一一三一人と前年度より一九五七人増え、倍率は六・九倍まで下がっている。
地方銀行は全国で九十五行という数え方になる
もう一方の入口はどうか。銀行は業界団体の区分で数えられていて、全国銀行協会が毎月出す全国銀行預金・貸出金等速報の二〇二六年八月末版では、全国銀行一〇六行の内訳が示されている。都市銀行が五行、地方銀行が六十一行、第二地方銀行協会に加盟する地方銀行が三十四行、信託銀行が四行、これにSBI新生銀行とあおぞら銀行が加わる構成である。
就職先として「地銀」と呼ぶとき、この六十一行だけを指す場合と、第二地方銀行協会の三十四行を含めて九十五行と捉える場合がある。採用の規模も歴史も両者で違うため、志望先を並べるときは自分がどちらの枠で数えているかを意識したほうがよい。会社の成り立ちについては地方銀行とは何かのほうで扱っている。
注目したいのは、自治体の数と銀行の数の開きである。都道府県は四十七、市区町村は千七百を超えるのに対し、地方銀行は多い数え方をしても百行に届かない。つまり地元に残る前提で民間を選ぶ場合、銀行という選択肢そのものが構造的に細い。再編が続いている業界でもあるため、受ける年によって選べる会社が減っている可能性も頭に入れておきたい。
併願するなら、筆記の重さを先に見積もる
時期の設計で効いてくるのは、選考の形が根本から違うという点である。自治体の採用は競争試験を基本としていて、教養や専門の筆記が入口に置かれる。対策に数か月単位の時間がかかる一方、日程と科目は事前に公表されるため、逆算した計画は立てやすい。日程の組み立て方は公務員試験のスケジュールにまとめてある。
銀行の側は民間の採用なので、説明会と面接が中心になり、筆記は適性検査にとどまることが多い。準備の総量は自治体より軽い場合がある反面、時期は会社の判断で動く。両方を志望するなら、重いほうの準備を軸に据え、軽いほうを合間に差し込む配分が現実的である。逆にすると、筆記の仕上がりが間に合わない。自治体側は募集区分が事務や技術などに分かれていて、区分ごとに試験日が重ならないよう組まれていることもあるため、出願の段階で複数の自治体を押さえられるかどうかも確かめておきたい。
もう一つ、併願を「保険」として組むと動機の説明が弱くなりやすい。面接では、なぜ役所ではなく銀行なのか、あるいはその逆を必ず問われる。地域に関わる手段として両者がどう違うのかを自分の言葉で言えるかどうかが分かれ目になる。地域と学生の接点をつくるFLASPOのような取り組みに早いうちから触れておくと、この問いに具体で答えやすくなる。働き始めた後の実感は地方就職した若手社員の働き方も参考になる。
よくある質問
競争率が下がっているなら対策は軽くしてよいか。そうはならない。倍率は受験者数を合格者数で割った全体の平均であって、個々の自治体の難しさを表すものではない。県庁や政令指定都市の事務職は依然として応募が集まる区分であり、四・六倍という値をそのまま自分の志望先に当てはめると見積もりを誤る。
地方銀行に入るのに地元出身である必要はあるか。要件として課されることは通常ない。ただし営業の範囲が地域に限られる以上、その土地に長く住む意思があるかは確かめられやすい。出身であることよりも、なぜその地域なのかを説明できるかが見られていると考えたほうがよい。
新卒で入れなかった場合、後から入り直す道はあるか。自治体については社会人経験者を対象とした採用が広がっており、二〇二三年度の採用者は一万人を超えている。倍率は新卒向けの試験より高い水準にあるが、入口そのものは開いている。銀行でも中途採用は行われているため、新卒の一回で決まらなければ終わり、という構図ではない。
中途採用の受験者数も減っているのか。減っている。二〇二三年度に実施された中途採用試験の受験者数は七万六四七一人で、前年度から三四五六人少ない。実施する団体そのものは増えており、受験者が減って採用者が増えた結果として倍率が下がる構図は、新卒向けの試験と同じ形をしている。
自治体と銀行のどちらが安定しているか。どちらも単純には言えない。自治体の職員数は近年ほぼ横ばいで推移している一方、銀行は再編が続いており、勤め先の名前が変わる可能性は否定できない。安定という言葉を使うときは、雇用が続くことを指すのか、仕事の中身が変わらないことを指すのかを分けて考えると判断しやすい。
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