移住にかかった金額を経験者に尋ねると、返ってくる数字の幅が大きい。50万円で収まったという人もいれば、2,000万円を超えたという人もいる。どちらも誤りではない。家を買ったのか借りたのか、車を1台足したのか、家具を運んだのか買い直したのか。前提が違えば総額は一桁動く。幅が出るのは相場がはっきりしないからではなく、数えている中身が人によって違うからである。国土交通省が毎年行っている住宅市場動向調査を開くと、住まいの種類ごとに動いた金額が実額で並んでいる。
見積もりは三つの箱に分けてから数える
手を動かす前に、紙を三つに区切ってほしい。一つめの箱は住まいである。取得するなら代金と諸費用、借りるなら契約時の一時金が入る。二つめは道具の箱で、家具、家電、通信回線、そして車がここに収まる。三つめは毎月の箱、つまり移った先で払い続ける家賃や光熱費である。
なぜ分けるのか。答えなければならない問いが二つあって、必要な数字が別なのだ。「移るためにいくら貯めればよいか」に答えるのは一つめと二つめの箱で、原資は貯金と借入になる。「移った後に家計が回るか」に答えるのは三つめの箱で、原資は移住後の収入である。混ぜて一つの総額にすると、どちらの問いにも答えられない数字ができあがる。
三つの箱を埋めたあと、最後に引き算をする。移住支援金や自治体の補助が戻ってくるぶんだ。ただしこれは入金の時期が遅れるため、箱を埋める段階では当てにしない。順番としては、三つを積み上げてから引く形になる。
住まいの費用が総額の桁を決める
三つの箱のうち、総額を左右するのは最初の一つである。国土交通省の令和7年度住宅市場動向調査は、令和6年度中に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯に聞き取ったもので、2026年7月に結果が公表された。住まいの種類別に、購入資金と、入居を契機に買った家具家電の金額が出ている。
| 住まいの種類 | 購入・リフォーム資金の平均 | 家具家電の平均 | 家具家電の中央値 |
|---|---|---|---|
| 注文住宅(全国) | 7,646万円 | 204万円 | 105万円 |
| 分譲集合住宅 | 6,443万円 | 152万円 | 100万円 |
| 分譲戸建住宅 | 5,099万円 | 137万円 | 90万円 |
| 既存(中古)集合住宅 | 3,321万円 | 74万円 | 50万円 |
| 既存(中古)戸建住宅 | 2,966万円 | 96万円 | 60万円 |
| リフォーム住宅 | 170万円 | 86万円 | 40万円 |
注文住宅の7,646万円とリフォームの170万円では45倍の開きがある。地域による価格差を調べる前に、どの型で住まいを確保するかを決めたほうが、見積もりは早く固まるということだ。中古の戸建を選んだ世帯の購入資金は平均2,966万円で、このうち自己資金が1,130万円、自己資金比率は38.1パーセントだった。購入資金の中央値は2,650万円である。
読むときの注意が一つある。この調査で注文住宅だけが全国を対象にしており、ほかの種類は首都圏、中京圏、近畿圏の三大都市圏で調べられている。したがって表の金額は地方の価格そのものではない。使えるのは種類ごとの序列と、自己資金がどれくらい求められたかという比率のほうである。
道具の箱は、住まいの種類に引きずられる
二つめの箱で見落としが起きやすい。家具と家電は「持っているものを運べばいい」と考えがちだが、調査の数字はそうなっていない。住宅の取得や入居を契機に購入した耐久消費財の合計は、中古の戸建に移った世帯で平均96万円、中央値60万円だった。中古の集合住宅なら平均74万円、中央値50万円である。間取りが変われば使えない家具が出るし、寒い地域に移れば暖房器具が要る。
平均と中央値の差にも意味がある。注文住宅では平均204万円に対して中央値が105万円で、倍近い開きがあった。一部の世帯が大きく買い揃えて平均を引き上げている形なので、自分の見積もりに置くなら中央値のほうが実感に近い。
この箱でもう一つ重いのが車である。統計に車の金額は含まれていないが、鉄道やバスの便が細い地域では、世帯で2台目が必要になることがある。中古でも車両価格に加えて登録や保険の費用が乗るので、1台増えるという判断は家具家電の総額を超える規模になりやすい。住まいの候補地を決める段階で、何人が運転するかまで決めておきたい。
毎月の箱は、借りるか持つかで中身が入れ替わる
三つめの箱は、住まいの決め方でそのまま構成が変わる。借りる場合、同じ調査で民間賃貸住宅に入居した世帯の月額家賃は平均83,381円、中央値74,000円、共益費が平均4,837円だった。こちらも調査地域は三大都市圏なので、地方の相場はこれより低い。都道府県別の家賃相場|東京と岡山で1.64倍ひらく住居の物価に県ごとの水準をまとめている。
買う場合はこの欄が小さくなる。家賃の支払いは消えるが、代わりに固定資産税が毎年かかり、屋根や外壁や給排水の修繕費が自分の負担になる。古い家を安く手に入れた場合はとくに、取得費の安さと維持費の高さが入れ替わる形になりやすい。見学の段階で水回りと屋根を見て、修繕の見積もりを取得費に合算してから比べるのが安全である。
毎月の箱には、ほかに光熱費と車の維持費が入る。暖房に灯油やプロパンガスを使う地域では、電気とガスだけで暮らしていたときより費目が増える。移住で支出がどう動くかは地方移住の費用とは|年47万円下がる支出と、逆に上がる3つの費目で家計調査から追っている。
最後に、戻ってくる金を引く
三つの箱が埋まったら引き算に移る。全国共通の仕組みが地方創生移住支援事業である。東京23区に住んでいた人、または東京圏から23区へ通勤していた人が東京圏外へ移り、就業や起業などの要件を満たすと、都道府県と市町村が共同で支援金を交付する。
内閣官房と内閣府が示す地方創生移住支援事業の案内によると、額は世帯で100万円以内、単身で60万円以内、18歳未満の世帯員を帯同する場合は1人につき最大100万円が加算される。具体的な額は都道府県が設定するため、同じ制度名でも移住先によって異なる。
引き算に使うときの条件も押さえておきたい。申請は転入後1年以内で、申請後5年以上その市町村に住み続ける意思が求められる。申請から5年以内に転出すると返還の対象になる。つまりこの100万円は「移るための資金」ではなく「住み続けた結果として残る資金」に近い。自治体ごとの上乗せは地方移住の補助金はいくら?国・自治体の支援制度を完全まとめに整理がある。地域との関係づくりを手がけるFLASPOが受ける相談でも、交付の時期を読み違えて資金繰りが詰まる例が目立つ。
よくある質問
移住費用の総額の相場はいくらか。一つの額では示せない。住まいをどう確保するかで桁が動き、調査でも注文住宅7,646万円からリフォーム170万円まで開いている。相場を探すより、三つの箱に自分の前提を入れて積むほうが早い。
中古戸建の2,966万円は地方でもあてはまるか。あてはまらない。この金額は三大都市圏で調べた平均である。地方で使えるのは、自己資金比率が38.1パーセントだったという比率のほうで、総額の何割を現金で用意することになるかの目安になる。
家具家電はいくら見ておけばよいか。中古戸建に移った世帯の中央値が60万円だった。すべて買い替える前提なら平均の96万円に近づき、運べるものが多ければ下がる。間取り図を先にもらい、入らない家具を数えてから金額を置くと精度が上がる。
支援金を初期費用の支払いに充てられるか。難しい。申請が転入後になるため、契約や引っ越しの代金は先に自分で払うことになる。立替の期間を見込んで、支援金とは別に動かせる現金を残しておきたい。
下見の費用はどの箱に入れるのか。道具の箱の隣に小さな欄を作るとよい。交通費と宿泊費は一度だけの支出だが、候補地を二つ三つ回ると無視できない額になる。自治体が用意する移住体験の住宅や交通費の補助を使える場合があるので、申し込み前に窓口で確かめたい。
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