起業家の移住先はどう絞るか|起業支援金43道府県と開業率で読む

事業を立ち上げる場所を地方に移すとき、家賃や景色より先に効いてくるのは制度の線引きである。国の起業支援金は全国どこでも使えるわけではなく、申請できない県が4つある。一方で、開業が活発な地域は必ずしも支援金が使える地域と一致しない。制度の地図と市場の地図はずれているので、両方を重ねてから候補地を絞ったほうが早い。順に見ていく。

国の起業支援金には、申請できない4つの都府県がある

最初に確かめたいのは、候補地の県がそもそも制度を動かしているかどうかである。内閣府の起業支援金の案内によると、地方創生起業支援事業は計画を策定した都道府県と市町村しか実施できず、令和8年度に実施するのは東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府を除く43道府県である。

支援の中身は、地域の課題解決に資する社会的事業を新たに起こす人に対して、都道府県または市町村が選んだ執行団体が伴走しつつ、起業に必要な経費の2分の1を交付する形である。上限は200万円で、子育て支援、地域産品を使う飲食店、買い物弱者の支援、まちづくりの推進といった幅広い分野が想定されている。対象になるには、国の交付決定日から補助事業期間の完了日までに個人の開業届を出すか法人を設立し、起業する県内に住んでいるか住む予定であることも要件になる。事業承継や第二創業で使う場合は、Society5.0関連業種など付加価値の高い分野であることが加わる。要件の細部や受付期間は各自治体が決めているため、県のページを開く前に「実施しているか」から確かめるのが順番として正しい。

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東京圏に住み続けたまま使う道も、条件つきで残っている

地方へ住まいごと移すのが難しい人にも抜け道がある。制度が線を引いているのは東京圏で、具体的には東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の4都県を指す。ところが同じ4都県のなかにも「条件不利地域」が設定されていて、そこで社会的事業を起こすなら対象になる。

条件不利地域とは、過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法、山村振興法、離島振興法、半島振興法、小笠原諸島振興開発特別措置法のいずれかで条件不利地域を持つ市町村のうち、政令指定都市を除いたものと、平成22年から令和2年の人口減少率が10パーセント以上の市町村である。内閣府が挙げている具体の自治体は、東京都で檜原村や奥多摩町、大島町など11、埼玉県で秩父市や飯能市、ときがわ町など15、千葉県で銚子市や館山市、南房総市など23、神奈川県で三浦市や山北町、箱根町など6となる。合わせて55市町村で、島や山あいの自治体が並ぶ。首都圏の縁に事業の軸足を置く選び方は、通いやすさと制度の両方を取る現実的な解になる。移住支援金の要件そのものを先に押さえたい場合は、移住支援金の条件を整理した記事が入口になる。

開業が活発な11都県と、支援金が使える県はきれいに重ならない

制度の有無だけで決めると、市場の濃さを見落とす。厚生労働省が雇用保険事業年報をもとに作成した各地域の雇用等に関する資料集では、2022年度の全国の開業率は3.9パーセント、廃業率は3.3パーセントだった。全国の開業率を上回ったのは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府、奈良県、福岡県、熊本県、沖縄県の11都県である。

開業率が全国平均超の都県 東京圏かどうか 県として起業支援金を実施
埼玉県・東京都・神奈川県 東京圏 実施していない
千葉県 東京圏 実施(対象は県内の条件不利地域)
大阪府 東京圏外 実施していない
愛知県・三重県・奈良県・福岡県・熊本県・沖縄県 東京圏外 実施
開業率は厚生労働省「雇用保険事業年報」による2022年度の値、実施状況は内閣府「起業支援金」の令和8年度の記載から整理した

こうして並べると、開業が活発で、かつ県としての起業支援金をそのまま使えるのは愛知・三重・奈良・福岡・熊本・沖縄の6県に絞られる。千葉県は制度を動かしているが、東京圏に属するため起業の場所は県内の条件不利地域に限られる。大阪府は開業率が高いのに県としての実施がない。開業率は雇用関係が新たに成立した事業所の数を前年度末の適用事業所数で割った値なので、人を雇う事業所の動きを映す指標である。従業員を抱える計画なら参考になるが、一人で始める事業の濃さを直接示すわけではない点は割り引いて読みたい。

移住支援金と重ねると、受け取れる額は最大300万円になる

資金計画の側から見ると、国の支援は2本立てで設計されている。内閣府の起業支援金・移住支援金のページでは、起業支援金が最大200万円、移住支援金が最大100万円で、単身の場合の移住支援金は最大60万円とされている。

地方へ移住して社会的事業を起こした場合は両方を受け取れるため、合計で最大300万円、単身なら最大260万円になる。移住支援金のほうは地域の重要な中小企業等への就業や社会的起業をする移住者が対象で、起業せず就業する道を選んでも使える。加えて、大学卒業後すぐ地方に就職して移る学生向けに、就職活動の交通費の最大2分の1と移転費を支援する地方就職支援金も用意されている。周辺の優遇も見ておきたい。移住者には住宅ローンのフラット35の金利引き下げ、起業者には日本政策金融公庫の新規開業資金などの貸付利率の引き下げが用意され、移住者を採用した事業主には厚生労働省の中途採用等支援助成金のUIJターンコースがある。支給額や実施期間は自治体ごとに違い、各年度の予算の内容で事業が変わり得るとも明記されているので、年度が替わる前後の申請は条件を読み直す必要がある。

離島を選ぶなら、創業支援金600万円という別の枠がある

候補地を島まで広げると、資金の枠組みそのものが変わる。国土交通省の離島活性化交付金事業の概要によると、この交付金の定住促進事業には産業活性化事業が含まれ、そのなかに離島の地域課題解決に資する社会的事業への創業支援金が置かれている。

上限は1事業あたりの事業費で600万円、地方自治体ごとに3事業までという枠がある。事業の実施主体は都道県、市町村、民間団体で、補助率は自治体や一部事務組合が各事業の2分の1以内、民間団体が3分の1以内となっている。事業期間は原則3年以内で、あらかじめ提出する事業計画に定量的な成果目標を設定することが求められる。同じ交付金では、戦略産品の輸送費支援、コンテナや冷蔵庫などの流通効率化、ドローンや遠隔診療といった新技術の導入、買い物支援や高齢者の送迎といった小規模離島の生活環境改善も対象になっている。島で事業を立てる場合、国の起業支援金ではなくこちらの枠に乗るほうが筋が通ることがあるので、自治体の窓口でどの制度に当てるのが現実的かを先に聞いておきたい。地域の課題の手触りから事業の種を探す段階なら、FLASPOのように地域と関わる入口を使って現地の声を集める方法もある。

よくある質問

起業支援金は、どんな事業でも対象になるのか。対象は地域の課題解決に資する社会的事業に限られる。何が社会的事業に当たるかは各都道府県や市町村が分野を設定しているため、同じ業種でも県によって可否が分かれる。申請書類を作る前に、起業する予定の自治体にその分野が入っているかを確認するのが先になる。

県が実施していない場合、市町村の窓口はあるのか。本事業は計画を策定した都道府県と市町村が実施するもので、県が実施していなくても市町村が実施している場合がある。内閣府は都道府県の関連ページ一覧と市町村の関連ページ一覧を別に公開しているので、県の一覧で見つからないときは市町村の一覧を当たるとよい。

開業率の高い県を選べば事業は立ちやすいのか。開業率は雇用関係が新たに成立した事業所の割合であり、自分の事業が伸びる確率を示す数字ではない。同じ資料では開業率と廃業率の差も示され、関東や近畿を中心に開業が廃業を上回る地域が多いと整理されている。候補地を比べる材料のひとつとして使い、顧客がどこにいるかという問いは別に立てたい。

補助金を前提に資金計画を組んでよいか。起業支援金は経費の2分の1が上限で、残りは自分で用意する必要がある。交付決定の前に支出した経費は対象外になりやすく、開業届や法人設立のタイミングも要件に関わる。先に手元資金と借入の見通しを立て、支援金は上乗せとして置くほうが安全である。候補地そのものを比べ直したいときは、都道府県別の移住先ランキングを読み解いた記事と、資金面の全体像をまとめた地域起業の支援制度の記事が参考になる。


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