失敗から学ぶという言葉は使い勝手がよすぎて、たいてい具体的な中身を伴わない。ところが地方創生については、何がうまくいかなかったのかを政府自身が文書にして閣議決定している。2025年6月13日に決まった「地方創生2.0基本構想」である。成功事例の紹介ではなく、十年続けた政策の反省が項目立てで並んでいる文書は多くない。そこに書かれた言葉を、自分の地域や自分の企画に当て直してみる価値はある。
「至らなかった」と書いたのは、評論家ではなく政府である
2014年にまち・ひと・しごと創生法が制定され、地方創生が始まった。地方創生2.0基本構想はその十年を「地方創生1.0」と呼び、冒頭でこう整理している。全国各地で取組が行われ、様々な好事例が生まれたことは大きな成果である。一方、こうした好事例が次々に「普遍化」することはなく、人口減少や、東京圏への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった、と。
この一文の重さは、続く問いの立て方に出ている。好事例の普遍化はなぜ進まなかったのか、と文書は自問し、国・都道府県・市町村という縦のつながりだけでなく、他の町との横の関係を意識する必要があったのではないかと書く。成果が出た地域があるのに全体の流れが変わらなかった、という形の失敗である。個別の事業が外れたという話ではない。良い事例が増えても、それが隣の自治体に移らず、国全体の数字に表れないまま終わった。十年かけて分かったのはそこだった。
反省その一 人口を増やす話が前に出て、奪い合いになった
基本構想は反省すべき点を四つに整理している。一つ目は、人口減少を受け止めた上での対応が足りなかったという点である。2014年の総合戦略は人口減少に歯止めを掛ける考え方で施策を進めたが、人口減少そのものを食い止める視点が前面に出た結果、子育て支援や移住促進が中心となり、地方公共団体間での人口の奪い合いにつながったとの指摘がある、と書かれている。
移住支援の制度を隣町より手厚くすれば、その町から人が来る。来た分だけこちらの数字は改善し、向こうの数字は悪化する。全国の合計は動かない。十年分の施策を合計したときに一極集中の流れが変わらなかった理由の一つがここにある。文書はさらに、人口が減る中でも機能し得る地域社会や産業構造の再構築と、それを可能にする制度設計に向けた議論が後回しにされたのではないかと続ける。減ることを前提にした設計、つまり生活サービスの維持や担い手の確保、労働生産性の底上げが、増やす努力の陰に回ったという自己評価である。
反省その二 若者と女性が出ていく理由に、施策が届いていなかった
二つ目は、若者や女性が地域から流出する要因へのリーチ不足である。基本構想は、様々な対策を打ち出したにもかかわらず人口流出に歯止めが掛からなかった理由として、地域に魅力的な職場がなかったこと、そしてアンコンシャス・バイアスに有効にアプローチできなかったことを挙げる。地方から首都圏等に転出した当事者から、男女ともに地域におけるアンコンシャス・バイアスを息苦しく感じたことが転出の理由だという声が挙がっている、という記述もある。
注釈にはその声が具体的に引かれていて、やりたい仕事がない、結婚・出産の圧力が息苦しい、地域で女性役割を求められるのが苦痛、という意見が紹介されている。男性についても、男のくせに、一家の大黒柱なのだから、といった固定的な役割の期待による息苦しさが語られたとある。数字の側も同じ方向を指す。基本構想が住民基本台帳人口移動報告から作成した図では、2024年の東京圏の転入超過のうち10代と20代を合わせた分が13万人を超える。男女別では男性が約5万5,000人、女性が約6万4,000人の転入超過で、男性に比べ一度東京圏に転入した女性は地方に戻らない傾向にある、とも書かれている。補助金の額ではなく、職場の中身と地域の空気が論点だったという整理である。
反省その三と四 会議は意見を聴く場で終わり、計画は外に出された
三つ目は国と地方の役割の検討不足、関係機関の連携不足である。市町村では法令に基づく目の前の事務処理に大半のリソースを割かざるを得ず、地域と向き合い未来のビジョンを議論することに十分注力できていないという指摘が引かれている。専門人材が確保できず、福祉やインフラ管理といった分野で法令に基づく事務の実施に課題が生じている市町村も存在する、という記述もある。計画を練る時間がない組織に、計画を求めていた構図である。
四つ目が最も具体的で、読みながら思い当たる人も多いだろう。産官学金労言士等の多様なステークホルダーが参画する関係者会議が開かれたものの、その「意見を聴く」にとどまり「議論」には至らなかった。地方公共団体が戦略や企画の立案の大部分を外部に委託し、当事者意識を持って主体的に取り組まなかった事例があるなどと指摘されている。さらに交付金についても、これまで縦割り・単独事業が大半であり、小粒で補助金化していたのではないか、事業の効果測定や検証・改善が形式的に行われてきたのではないかと書かれている。会議、委託、交付金という三つの仕組みが、いずれも形だけ整って中身が入らなかったという反省になっている。
次の十年に置かれた目標は、反省と対になっている
基本構想は十年後に目指す姿として定量的な目標を並べる。並べ方を見ると、どの反省に対する答えなのかが見えてくる。
| 目指す姿 | 示された目標 | 対応する反省 |
|---|---|---|
| 若者や女性にも選ばれる地方をつくる | 東京圏から地方への若者の流れを倍増する | 若者・女性の流出要因へのリーチ不足 |
| 性別にかかわらず能力を発揮できる | 女性のM字カーブとL字カーブを解消する | アンコンシャス・バイアスへの対応不足 |
| 若者や女性が地域づくりの議論に参加している | 議論の場に若者・女性が人口比並みに参画する | 会議が意見聴取にとどまった点 |
| 地域資源を活用した高付加価値型の地方経済 | 東京圏以外の道府県の一人当たり付加価値労働生産性を東京圏と同水準にする | 人口減少を前提とした対応の不足 |
| 国際競争力のある産品を世界に売り込む | 農林水産物・食品の輸出額とインバウンドの食関連消費額の合計を3倍にする | 稼ぐ力の弱さ |
| 新たな起業に挑戦できる環境 | 価値創造に取り組む企業がある市町村の割合を10割にする | 多様な担い手の巻き込み不足 |
注意したいのは、倍増や3倍といった目標が、反省の内容を解決する手段としてではなく到達点として置かれていることである。十年前の総合戦略も東京圏の転出入均衡という到達点を掲げ、届かなかった。到達点を立て直しただけでは一つ目の反省をもう一度踏むことになる。目標の下に書かれた「どうやって」の部分、つまり地方の魅力を高め転入希望を増やす環境整備という一文の中身を、誰がいつ作るのかが問われている。
失敗から学ぶとは、どの文を自分の地域に当てるかである
四つの反省は、読み替えれば企画を点検する問いになる。この取組は隣の自治体から人を移すだけの話になっていないか。関わる若者は意見を聴かれる側に置かれていないか。計画の中心部分を外注していないか。指標の検証は、報告のためだけに行われていないか。どれも抽象的な理念ではなく、会議の議事録や委託契約書、交付申請の様式を見れば答えが出る問いである。
とくに四つ目は、学生や若手が関わる場面で効いてくる。議論の席に人口比並みに若者が入るという目標が国の文書に書かれたことは、席を求める側にとって使える根拠になる。FLASPOが扱う企画でも、意見を述べて終わる関わり方と、設計から入る関わり方では、残るものがまったく違う。前者を繰り返した十年の記録が、この基本構想である。背景の整理は地方創生の目的と背景の記事、十年の成果と壁の整理は地方創生の現状と課題の記事、交付金の出口の問題は補助金頼みの地方創生の記事でそれぞれ扱っている。
よくある質問
地方創生2.0基本構想はどこで読めますか
内閣官房の新しい地方経済・生活環境創生本部のページに本文が公開されている。令和7年6月13日の閣議決定で、第2章の4に「これまでの地方創生10年の成果と反省」、第3章に十年後に目指す姿が置かれている。反省すべき点は四項目に整理され、それぞれ数段落にわたって記述されている。
人口の奪い合いという指摘は移住支援を否定しているのですか
基本構想は移住促進そのものを否定していない。人口減少そのものを食い止める視点が前面に出た結果として子育て支援や移住促進が中心となり、自治体間での人口の奪い合いにつながったとの指摘がある、という書き方である。問題にされているのは施策の種類ではなく、減ることを前提にした地域社会や産業構造の作り直しが後回しになった順序のほうだと読める。
交付金事業の検証が形式的だったという指摘に根拠はありますか
内閣府が令和7年3月に公表した交付金事業の効果検証の報告書では、令和5年度の994事業について、一つ以上のKPI目標を達成した事業が59パーセント、目標値に達したKPIの割合は39パーセントだった。一方で交付金を活用した事業の92パーセントで地方創生に効果があったと地方公共団体が認識している。指標の達成状況と現場の認識が離れている状態が、検証の形式化という指摘の裏側にある。
十年後の目標はどこまで具体的に決まっているのですか
若者の流れを倍増する、付加価値労働生産性を東京圏と同水準にする、農林水産物・食品の輸出額とインバウンドの食関連消費額の合計を3倍にするなど、方向と倍率は示されているが、年次ごとの配分までは基本構想に書かれていない。デジタル田園都市国家構想総合戦略の期間は2023年度から2027年度で、その中間検証は2025年度中に行うとされている。
学生が地方創生に関わるとき、この文書はどう使えますか
議論の場への参画を求めるときの根拠に使える。国および地方公共団体における地方創生の議論の場において、若者や女性がそれぞれの人口比並みに構成員として参画している状態を十年後の姿として掲げているため、関係者会議の構成を尋ねる材料になる。意見を聴くにとどまり議論には至らなかったという反省も、同じ文書の中に明記されている。
出典
内閣官房「地方創生2.0基本構想」(令和7年6月13日閣議決定)/内閣府地方創生推進事務局「デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生拠点整備交付金)事業の効果検証に関する調査報告書」(令和7年3月)/総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2024年結果」
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