開業届を出す順番で、使える枠が入れ替わる
地方で店や事業を立ち上げようと決めたとき、多くの人は先に開業届を出してから補助金を探し始める。ところがこの順番が、使える枠をひとつ丸ごと消してしまうことがある。補助金の公募要領は、申請者がいつ事業を始めたかを要件として細かく縛っているからだ。
内閣府の地方創生起業支援事業は、国の交付決定日以降から補助事業期間の完了日までに個人開業届または法人の設立を行うことを要件にしている。つまり、交付決定より前に開業していると対象から外れる。逆に小規模事業者持続化補助金の創業型は、公募締切時から起算して過去1か年の期間内に開業日が含まれていることを求める。こちらは先に開業していなければ申請できない。
二つの制度は、同じ「地域での起業を支える補助金」という看板を掲げながら、開業日の扱いが正反対になっている。両方を順に使いたい場合、どちらを先に動かすかで結果が変わる。移住をともなうなら、ここに地方創生移住支援事業も重なってくる。
制度の全体像を資金の渡し方から整理した地域おこし協力隊の起業支援のような任期付きの枠も含めると、選択肢はさらに広がる。ただ、補助金として申請書を書くことになるのは、おおむね次の三つに絞られる。
創業型は、市区町村の証明書を取るところから始まる
小規模事業者持続化補助金の創業型は、販路開拓の経費に補助率2分の1ではなく3分の2が付く点で、創業期にはかなり有利な枠だ。補助上限は200万円で、適格請求書発行事業者の登録を受けたインボイス特例の要件を満たすと、ここに一律50万円が上乗せされて250万円になる。
ただし入口が独特で、申請の前提として産業競争力強化法に基づく認定市区町村、または認定市区町村と連携した認定連携創業支援等事業者が実施する「特定創業支援等事業」の支援を受けていなければならない。具体的には創業塾や個別相談で、1か月以上の期間をかけて4回以上といった継続性の要件が置かれている。受講を終えると自治体が証明書を発行する。
第4回の受付締切は2026年12月15日で、支援を受けた日と開業日の両方が2025年12月15日から2026年12月15日までに収まっていることが条件になる。創業塾は通年開催ではないため、締切の2か月前に気づいても間に合わないことがある。
補助対象は小規模事業者で、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は常時使用する従業員が5人以下、宿泊業・娯楽業と製造業その他は20人以下という線が引かれている。会社役員と同居の親族従業員はこの人数に含まれない。
起業支援金の相手は国ではなく執行団体
地方創生起業支援事業の申請窓口は、霞が関ではない。都道府県または市町村が公募で選んだ執行団体が、計画の審査から事業立ち上げの伴走支援までを担い、起業に必要な経費の2分の1に相当する額、最大200万円を交付する。
対象になるのは地域の課題解決に資する社会的事業で、子育て支援、地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進などが想定分野として挙げられている。起業地が東京圏以外の道府県か、東京圏内の条件不利地域であること、そして起業地の都道府県内に住んでいるか住む予定であることも要件だ。事業承継や第二創業で使う場合は、Society5.0関連業種等の付加価値の高い分野という別の縛りがかかる。
注意したいのは実施していない自治体があることで、令和8年度に実施するのは43道府県にとどまり、東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府では使えない。社会的事業分野の定義や受付期間も都道府県や市町村がそれぞれ設定しているため、金額だけ見て計画を組むと足元がずれる。
三つの枠を金額と条件で並べる
上限額を横に並べるだけでは判断を誤る。補助率が2分の1なら同額の自己負担が発生し、移住支援金のように自治体が額を設定する制度では上限どおり出るとは限らない。手元にいくら残るかと、誰に書類を出すかをそろえて見る必要がある。
| 制度 | 上限と補助率 | 開業日の扱い | 申請の相手 |
|---|---|---|---|
| 小規模事業者持続化補助金(創業型) | 200万円・3分の2(インボイス特例で50万円上乗せ) | 締切から過去1か年に開業日が入ること | 補助金事務局(電子申請) |
| 地方創生起業支援事業 | 200万円・2分の1 | 交付決定日以降に開業届または法人設立 | 都道府県・市町村が選んだ執行団体 |
| 地方創生移住支援事業 | 世帯100万円以内・単身60万円以内 | 転入後1年以内に申請 | 移住先の市町村 |
移住支援金は18歳未満の世帯員を帯同して移住する場合、1人につき最大100万円が加算される。起業支援金の交付決定を1年以内に受けていることが、移住支援金側の就業等要件を満たす道のひとつになっているため、この二つは設計上つながっている。移住にかかる支援の全体像は地方移住の支援制度まとめが参考になる。
証明書は補助金以外のところでも効く
特定創業支援等事業の証明書は、創業型の入場券であると同時に、会社設立そのものの費用を下げる。中小企業庁の資料では、株式会社の設立登記にかかる登録免許税が資本金の0.7%から0.35%に、最低額も15万円から7.5万円に下がる。合同会社は6万円が3万円になる。
補助金は原則として後払いで、採択されてから交付決定、事業実施、実績報告、精算という順に進む。先に自分で払う必要があるため、つなぎの資金をどう用意するかが現実の壁になる。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める人または事業開始後おおむね7年以内の人を対象に融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内、運転資金10年以内で、いずれも5年以内の据置期間を設定できる。
順番としては、まず市区町村の創業支援窓口で特定創業支援等事業の予定を確認し、受講と証明書の取得、必要なら融資の相談、そのうえで開業日を決めて補助金の公募回を選ぶ、という流れが無理がない。地域で働き方を変える選択肢を広く見たい人はFLASPOの情報もあわせて見てほしい。
よくある質問
創業型と起業支援金は同時に使えますか。制度としては別の財源で、重複申請を禁じているのは小規模事業者持続化補助金の一般型と創業型の間だ。ただし同じ経費を二重に補助してもらうことはできないため、どの支出をどちらに乗せるかを申請前に分ける必要がある。開業日の要件が正反対である点も踏まえ、執行団体と事務局の両方に確認するのが確実だ。
創業塾を受ける時間が取れない場合はどうすればよいですか。特定創業支援等事業は個別相談支援の形でも実施されており、自治体によって回数や曜日の組み方が異なる。認定市区町村は全国に広がっているので、居住地と起業地が違うなら両方の窓口を比べてみる価値がある。ただし軽減措置は支援を行った市区町村と同じ市区町村で創業することが前提になる点に注意したい。
インボイス特例の50万円は申請すれば必ず付きますか。付かない。2023年10月1日以降に創業した事業者で、補助事業の終了時点において適格請求書発行事業者の登録を受けていることが条件で、要件を満たさなければ上乗せは行われない。免税事業者のままでいる選択をするなら、この50万円は計算に入れないほうがよい。
補助金が不採択だった場合、次の回に出し直せますか。創業型は受付締切回ごとに公募が行われており、第3回の審査では要件に合致しない申請や書類の不備による不採択が数多くあったと事務局が公表している。再申請そのものは可能だが、開業日が過去1か年の期間から外れると資格を失う。日程を先に確かめておきたい。
出典:小規模事業者持続化補助金<創業型>事務局、内閣官房・内閣府 地方創生「起業支援金」、同「移住支援金」、中小企業庁「会社設立時の登録免許税の軽減について」、日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
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