商圏の薄さは、面積と人口を並べると見えてくる
同じ業種でも、どこに置くかで月々の売上の天井は変わる。総務省の「令和5年度版 過疎対策の現況」によると、過疎関係市町村は令和6年4月1日現在で885市町村あり、全国1,719市町村の51.5パーセントを占める。ところがそこに住む人は1,166万8,630人で、総人口1億2,615万人のうち9.3パーセントにとどまる。面積は238,675平方キロメートルで、国土の63.2パーセントにのぼる。国土の6割強に、人口の1割弱が散らばって暮らしている計算になる。
この偏りが事業に与える影響は単純だ。店を一つ構えたとき、歩いて来られる人の数が都市部とは桁で違う。移動販売や通信販売が地域の商いで定着しているのは、工夫好きだからではなく密度の問題である。立地だけで客足をつくる前提は、計画の段階で外しておいたほうがよい。
| 区分 | 過疎地域 | 全国 | 占める割合 |
|---|---|---|---|
| 市町村数 | 885 | 1,719 | 51.5% |
| 人口 | 1,166万8,630人 | 1億2,615万人 | 9.3% |
| 面積 | 238,675平方キロメートル | 377,976平方キロメートル | 63.2% |
人を雇って回す形が、そもそも組みにくい
売上の見通しが立っても、次に止まるのは採用である。人口の少ない地域では求人を出しても応募が一人も来ない月があり、繁忙期だけ手を借りる相手すら見つからない。地域側もその不足を自覚しているため、外から人を呼ぶ制度に頼っている。総務省の集計では、令和6年度に活動した地域おこし協力隊員は7,910人で前年度から710人増え、受け入れた自治体は1,176団体にのぼった。受け入れが可能な自治体1,461団体の約8割が、すでにこの仕組みを使っている。
言い換えれば、担い手を制度で補わなければ回らない場所が全国の自治体の大半だということだ。起業する側から見れば、人件費を払えるかどうかの前に、払う相手がいるかどうかという問題が先に立つ。開業初年度は一人で全工程を抱える設計にしておき、人が採れたら広げる順番にしないと、受注してから手が足りずに信用を落とす。同じ調査で任期後に就業を選んだ人の進路を見ると、最も多いのは自治体職員や集落支援員などの行政関係で363名、次が旅行業や宿泊業の観光業で153名だった。民間の求人が薄い場所では、行政に関わる仕事が受け皿として大きいという裏返しでもある。協力隊という入口の不利については地域おこし協力隊のデメリットの整理も合わせて読むとよい。
支援が終わったところに、もう一段の崖がある
補助や報酬がある期間は、売上が足りなくても生活が成り立つ。苦しくなるのはその先だ。総務省の調査では、平成31年度から令和5年度までの5年間に任期を終えた隊員8,034人のうち、同じ地域に住み続けたのは68.9パーセントの5,539人だった。残る3割は地域を離れている。活動地と同じ市町村に残った4,477人の内訳を見ると、起業が約46パーセントの2,077人、就業が約34パーセントの1,542人、就農や就林が約12パーセントの525人である。
起業に回った人が最多ではあるが、この数字には準備中の人も含まれている。支援の期限と事業の黒字化の時期がそろう保証はどこにもない。内閣府の地方創生起業支援事業にしても、交付されるのは必要経費の2分の1までで上限は200万円であり、残りの半分は自分で用意する。補助率が半分という条件は、裏返せば手元資金が倍ないと満額は使えないという制約でもある。資金の組み立ては日本政策金融公庫の創業融資と合わせて考えたい。
空き家は多いのに、貸してもらえる家は少ない
物件探しでも想定が崩れる。令和5年の住宅・土地統計調査では、総住宅数6,504万7千戸に対して空き家は900万2千戸、空き家率は13.8パーセントで、どちらも過去最高を更新した。数だけ見れば余っている。ところが賃貸や売却に出ている分と別荘などを除いた空き家は385万6千戸で、総住宅数の5.9パーセントにすぎない。この385万戸あまりは、市場に出ていないから空いているのであって、借りられるから空いているのではない。
実際に起きるのは、使える広さの家が見つからない、見つかっても所有者の相続が終わっていない、改修に建築確認が必要で開業が半年遅れる、といった足止めである。賃料が安いという利点は、こうした時間の損失と並べてはじめて意味を持つ。開業時期を先に決めてから物件を探すと、条件の悪い物件で妥協することになりやすい。
種類で見ると、空き家900万2千戸のうち一戸建は352万3千戸で39.1パーセント、共同住宅が502万9千戸で55.9パーセントを占める。店舗や工房に転用しやすいのは庭や土間のある一戸建だが、その一戸建も半数以上は賃貸や売却に出ていない区分に入る。数の多さを見て「安く借りられるはずだ」と計画を立てると、立ち上げの時期がまるごとずれる。
やめるときの身軽さが、都市より一段落ちる
最後に残るのが撤退の話だ。中小企業庁の小規模企業白書では、2022年度の開業率は3.9パーセント、廃業率は3.3パーセントとされている。全国の数字でも開業と廃業は近い水準で並んでおり、始めた事業がたたまれる可能性は決して小さくない。それでも都市なら、店を閉めて勤め先を変え、住まいはそのままにできる。
地域で重くのしかかるのは、売上が落ちても削れない費用のほうだ。車は一人に一台必要で、保険と車検と燃料がそのまま毎月の固定費になる。改修した建物は貸主に返すときの原状回復が条件になっていることがあり、厨房設備や乾燥機のような機械は買い手が近くにいないため、処分費を払って引き取ってもらう側に回る。縮小の判断が遅れるほど、この出ていく一方の費用が積み上がっていく。
地域では、事業と住まいと人の付き合いが同じ土地に重なっている。撤退は転職ではなく転居になり、紹介してくれた人や貸してくれた人への説明も伴う。だからこそ始める前に、どの数字を下回ったら縮小するのか、設備は中古で売れる形にしておくのか、といった出口を決めておく価値がある。暮らしの側の不利は移住のデメリットにまとまっている。地域に関わる入口を事業より先に小さくつくっておきたいなら、FLASPOのような体験の場から試す手もある。
よくある質問
地域での起業は都市より失敗しやすいのか。公的な統計で地域別の廃業率を業種までそろえて比べた資料は見あたらないため、失敗しやすいと断じる根拠はない。確かなのは、客の密度が薄く人手が採りにくいという二つの条件が同時にかかることで、売上の立ち上がりが遅れやすいという点である。
自己資金はどのくらい必要か。起業支援金のように補助率が2分の1の制度を満額で使うなら、同額の自己負担が前提になる。上限200万円を受けるには200万円を自分で出す計算だ。制度の併用条件は内閣府の地方創生起業支援事業のページで確認できる。
協力隊を経てから起業するほうが有利か。任期中に地域との関係と当面の収入を確保できる点は大きい。ただし任期終了後に同じ市町村に残った人のうち起業は約46パーセントで、残りは就業や就農を選んでいる。全員が起業に向かう道筋ではないと知っておきたい。
起業支援金はどの地域でも使えるのか。実施主体は都道府県または市町村で、令和7年度に実施したのは43道府県だった。東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府は実施していない。対象となるのは地域課題の解決を目的とした社会的事業の分野に限られるため、業種と地域の両方で条件を満たすかを先に確かめる必要がある。
不利を減らすために最初にやることは何か。商圏の人口と、同業がすでに何軒あるかを自分で数えることだ。自治体の人口ビジョンと国勢調査の小地域集計を見れば、半径数キロに何人住んでいるかは机の上で分かる。物件や補助金の話はその後でよい。
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