「自由だから」という答えを、統計はもっと細かく割っている
独立した人に理由を尋ねると、たいてい最初に返ってくるのは自由という言葉である。ただ、その一語の中には収入の話も、技能の話も、家庭の都合の話も混ざっている。国の調査はこれを選択肢に分けて数えており、どの成分が実際に太いのかが見える。
総務省の統計Today No.197は、本業がフリーランスの209万人に対し、いまの就業形態に就いている主な理由を集計している。首位は専門的な技能等を生かせるからで32.5%、次が自分の都合のよい時間に働きたいからで29.5%だった。対して、正規の職員・従業員の仕事がないからという不本意な理由は3.5%にとどまる。
| 現職の就業形態に就いている主な理由 | 男女計(%) | 男性(%) | 女性(%) |
|---|---|---|---|
| 専門的な技能等を生かせるから | 32.5 | 35.7 | 25.2 |
| 自分の都合のよい時間に働きたいから | 29.5 | 27.7 | 33.5 |
| 家計の補助・学費等を得たいから | 5.7 | 4.8 | 7.6 |
| 家事・育児・介護等と両立しやすいから | 5.6 | 1.8 | 14.2 |
| 正規の職員・従業員の仕事がないから | 3.5 | 4.1 | 2.2 |
| 通勤時間が短いから | 0.8 | 1.0 | 0.4 |
| その他 | 22.4 | 24.8 | 17.0 |
男女で重心がずれているのが特徴である。男性は専門技能を挙げる割合が35.7%で最も高く、女性は時間の都合を挙げる割合が33.5%で最も高い。家事・育児・介護等と両立しやすいからを選んだ女性は14.2%に達し、男性の1.8%とは8倍近い差がついた。同じ働き方が、立場によって別の効用を持っているということになる。
技能の値段を、自分の側から提示できる
会社員の報酬は、職務等級や在籍年数といった社内の尺度を経由して決まる。独立すると、この変換装置がなくなる。技能に対して相手がいくら払うかが直接見えるようになり、値付けの主導権を一部こちらが握る。
内閣官房日本経済再生総合事務局が全国のフリーランス7,478人から回答を得たフリーランス実態調査結果では、この働き方を選んだ理由として自分の仕事のスタイルで働きたいためが57.8%で最も多く、より自分の能力や資格を生かすためが27.3%だった。収入を増やすためは31.7%で三番目に入っている。
技能が値段に直結する度合いは、産業によっても違う。就業構造基本調査では、学術研究、専門・技術サービス業の有業者に占めるフリーランスの比率が13.5%と最も高い。専門性で勝負する分野ほど、この働き方が市場に受け入れられているという読み方ができる。
職種ごとの単価の実際は、動画編集の収入の相場やライティングで独立する場合の収入に具体的な幅がまとめてある。
一日の形を、仕事の都合に合わせて組み替えられる
通勤の有無や始業時刻を自分で決められることは、単に楽になるという話ではない。繁忙と閑散を自分で均す余地が生まれ、家庭の事情と仕事を同じ時間割に載せられるようになる。
実際の時間の使い方も、一つの型に収まっていない。本業がフリーランスの人のうち年間就業日数が200日以上なのは58.0%で、週40〜49時間の層が22.5%と最も厚い。残る42.0%は年間200日未満で、女性に限るとこの割合は57.2%になる。会社員の標準に近い働き方も、そこから大きく外れた働き方も、同じ枠内に併存している。
副業として取り組む場合は、さらに柔軟である。副業がフリーランスの54万4600人のうち78.2%が、仕事があるときや忙しいときだけ働く不規則的就業の形をとっている。週5時間未満という層も5.3%を占めており、本業を抱えたまま小さく試せることがわかる。
前掲の内閣官房の調査でも、働く時間や場所を自由にするためを挙げた人が39.7%、ワークライフバランスを良くするためを挙げた人が11.9%いた。時間の裁量は、動機としても実態としても確かに存在している。
帳簿を整えると、税の側でも扱いが変わる
独立すると税金の手続きは増えるが、増えるだけではない。事業所得として申告する立場になることで、会社員にはない控除の枠が開く。
国税庁の青色申告特別控除の案内によれば、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、取引を正規の簿記の原則によって記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出すると、55万円の控除が受けられる。これに加えて、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存で備えるか、申告書と決算書類を期限までにe-Taxで送信すると、控除額は65万円になる。これらの要件に当てはまらない青色申告者の控除は10万円である。
差額の55万円は、同じ売上でも課税される所得が小さくなることを意味する。記帳の手間を複式簿記まで引き上げ、提出を電子化するという二つの作業に対して、制度が明示的に見返りを置いている形である。会計ソフトが一般化した現在では、この条件は以前ほど重い負担ではなくなった。
事業として届け出るところから整える手順は、ネットショップの始め方と開業届でも触れている。
取引先を増やすことで、収入の柱を複線化できる
給与所得は原則として勤め先が一つで、その会社の業績が傾けば収入も一緒に傾く。業務委託は相手を複数持てるため、一社の都合が家計に直撃する度合いを下げられる。これは独立の明確な利点である。
ただし、この利点を実際に使えている人は多数派ではない。内閣官房の調査で直近一年間の取引先数を尋ねると、1社のみと答えた人が40.4%を占めた。2社が18.0%、3〜4社が21.8%、5社が19.8%である。相手を増やせる構造を持っていても、実務では一社に寄りがちだという結果になっている。
言い換えれば、複線化は自動的には起きない。意識して二社目、三社目を開くところまで動いてはじめて、独立の自由度が収入の安定に変換される。取引先が一社に固定されている状態は、勤務との違いが小さくなるうえ、後述する法律の保護においても扱いが変わる場合がある。
2024年に、制度の足場が一段増えた
独立した側が長く不利だったのは、交渉の土台そのものである。ここが2024年11月に動いた。
フリーランス・事業者間取引適正化等法が同月1日に施行され、発注側は業務委託をしたら直ちに取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務を負うことになった。明示される項目には報酬の額と支払期日が含まれる。報酬は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払う必要があり、契約期間が1か月以上なら報酬の減額や買いたたきなどが禁じられ、6か月以上なら解除や不更新には少なくとも30日前までの予告が求められる。制度の全体像は国のガイドラインにまとまっている。
同じ2024年11月1日から、労災保険の特別加入の対象も広がった。厚生労働省の案内では、企業等から業務委託を受けているフリーランスについて、業種や職種を問わず特別加入ができるようになったと説明されている。仕事中や通勤中のけがや病気への備えを、自分の判断で用意できるようになったわけである。
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よくある質問
収入が増えることは、やはり最大のメリットなのでしょうか
統計の上では一番ではありません。就業構造基本調査で主な理由として最も多いのは専門的な技能等を生かせるからで32.5%、内閣官房の調査でも収入を増やすためは31.7%と三番目です。収入はもちろん動機の一つですが、技能の発揮と時間の裁量のほうが上に来ています。
青色申告特別控除の65万円は、誰でも受けられますか
事業所得などを生ずべき事業を営み、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告することが前提です。そのうえで電子帳簿保存かe-Taxでの送信が必要になります。要件を満たさない場合の控除は10万円にとどまるため、開業の時点で記帳の方法を決めておくほうが有利です。
副業のままでも、これらの利点は得られますか
時間の柔軟性と取引先の複線化は副業でも得られます。フリーランス法の保護も本業か副業かを区別しません。一方で青色申告特別控除は事業所得として申告できる規模と継続性が前提になるため、雑所得にとどまる段階では使えません。
取引先を増やすにはどこから手を付ければよいですか
現在の一社との取引を崩さずに、同じ技能が通る隣接分野へ提案を広げるのが現実的です。取引先が1社のみという人が40.4%いる現状からすると、二社目を持つだけで相対的な安定度は上がります。契約期間が1か月以上になる案件では禁止行為の規定も働くため、条件面の交渉もしやすくなります。
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