若い世代の二地域居住|仕事・お金・住民票をどう設計するか

若い世代の二地域居住|仕事・お金・住民票をどう設計するか

貯金は多くない、役職もない、いつ転職するかも決めていない。その状態で二か所の暮らしを始めるのは無謀に見えるかもしれないが、実際に詰まるのはお金の総量ではなく、条件の組み合わせ方のほうである。若い世代ほど不利に働く制度と、若い世代だから軽く済む負担が混ざっていて、その仕分けを先にやっておくと動ける範囲が変わる。

数の上ではもう珍しい選択ではない

身近に同じことをしている人がいないと、自分だけが変わったことを始める気分になる。ところが国土交通省が令和4年9月に実施した二地域居住に関するアンケートでは、18歳以上の人口およそ1億495万人のうち約6.7パーセント、人数にして約701万人が二地域居住などを行っていると推計されている。

この数字には、実家に定期的に戻る形や、休日だけ別の地域で過ごす形も含まれる。純粋な二拠点生活だけを取り出せばもっと少ないだろうが、それでも「二か所に足場を持つ暮らし」自体は特殊な選択ではないことが分かる。少数派であることを理由に踏みとどまる必要は、少なくとも統計の側からは出てこない。

ただし数の多さは、制度が若い世代に合わせて作られていることを意味しない。むしろ公的な後押しの多くは、家族を連れて本拠地ごと移す人を念頭に設計されている。そこに自分を無理に当てはめようとすると、噛み合わない部分ばかりが目につくことになる。

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最初の壁は、給付が本拠の移動を前提にしていること

地方創生移住支援事業による移住支援金は、金額だけ見れば魅力がある。世帯で100万円以内、単身で60万円以内、18歳未満の子を連れて移る場合は1人につき最大100万円の加算が乗る。若い世代が最初に目を付けるのもたいていこの制度になる。

条件を読むと事情が変わる。対象は、移住の直前10年間で通算5年以上かつ直近1年以上、東京23区内に住んでいたか東京圏から23区へ通勤していた人に限られる。就職して数年の人だと、この通算5年を満たせないことがまず起こる。テレワークを理由に受け取る場合は、移住先を生活の本拠として、移住元の勤め先の業務を続けることも求められる。

同じ勤め先に長く勤めていない、あるいは学生時代を地方で過ごしてから都市に出てきた、という経歴が不利に出る点は見落とされやすい。制度が想定しているのは、都市で腰を据えて働いてきた人が地方へ移る流れであって、まだ落ち着き先を探している段階の人ではない。設計思想がそこにある以上、要件の一部だけを崩して当てはめるのは難しい。

つまり住民票を都市部に残したまま行き来する形は、この給付の枠外に置かれている。要件の詳細は内閣官房・内閣府の移住支援金のページに出ている。最初から当てにせず、自力で回る設計にしておいたほうが計画は壊れにくい。

二つ目の壁は、勤め先がテレワークを持っているか

行き来を支えるのは制度ではなく働き方のほうで、ここが若い世代の分かれ目になる。総務省の令和6年通信利用動向調査によると、テレワークを導入している企業の割合はおよそ5割で、前年に続いて減る方向にある。しかもこの調査が対象としたのは、常用雇用者の規模が100人以上の企業6,121社である。

規模の小さい勤め先で働く人の実感は、この5割より低いところにあると考えたほうがよい。導入企業に絞って目的を見ても、感染症への対応を挙げた企業が66.0パーセントで最も多く、地方で働くことを見越して整えた制度とは性格が違う。数字の出どころは総務省の通信利用動向調査報告書にある。

働き方 行き来のしやすさ 先に確かめること
出社前提の正社員 週末と有給の範囲にとどまる 連続休暇の取りやすさ
テレワーク併用 月の数日から一週間単位で動ける 勤務地の届出と通信環境の規定
フルリモート 滞在日数を自分で決められる 居住地の制限があるかどうか
フリーランス 制約は少ない 収入の波と移動費の吸収

交渉の余地がないわけでもない。就業規則で認められていなくても、月に数日の在宅勤務が事実上許されている職場は珍しくない。まずは既に在宅で働いている同僚がいるかを確かめ、そのうえで勤務地の届出が要るのかを人事に一度だけ聞いておく。黙って始めて後から問題になるより、先に線を引いておくほうが続けやすい。

自分がどの行にいるかで、現実的な滞在の頻度は決まってしまう。上の行にいる人が無理に下の行の暮らし方を真似ると、移動と休暇の両方が削られて長続きしない。

住民票をどちらに置くかで手取りが動く

三つ目は書類の話に見えて、実際には毎月の支出に効いてくる論点である。住民票のある市町村が、住民税の納め先になり、国民健康保険に入っている場合は保険料の計算も、選挙の投票も、行政サービスの利用条件もそこに紐づく。二か所に生活があっても、住民票は一つしか置けない。

若い世代の場合、都市部に残す判断になることが多い。勤め先の通勤手当や社宅の規定が住所に連動している、実家が近い、といった事情が重なるからだ。その代わり、滞在先では住民向けの補助や公共施設の割引が使えない場面が出てくる。図書館の貸出、粗大ごみの出し方、健診の案内といった細かいところで差が出る。

滞在先の自治体が独自に出している支援のなかにも、住民登録を条件にするものとしないものがある。お試し住宅や空き家の紹介は登録なしで使えることが多い一方、住宅の改修費補助や子育て関連の給付は住民であることを求められる。使いたい制度が決まっているなら、そこから逆算して住所を決める順序もありうる。

判断を急ぐ必要はない。最初の一年は都市部に置いたまま通ってみて、滞在の比重が逆転してきた時点で移すかどうかを考え直せばよい。負担の全体像は二地域居住とはに、都市を離れる側の視点は地方移住とはにまとまっている。

若さが有利に働く部分もある

不利な条件ばかり並べたが、逆向きに効く要素も確かにある。荷物が少ないこと、家族の転校や介護の予定に縛られないこと、住まいを買わずに借りて試せること。この三つは、始めるまでの決断の重さをかなり軽くする。合わなければやめられるという前提で動けるのは、身軽な時期にしかない条件といってよい。

地域の側から見ても、若い担い手は歓迎されやすい。空き家の管理、イベントの手伝い、農繁期の手伝いといった役割は、体力と時間が要るぶん引き受け手が足りていない。報酬が大きいわけではないが、地域との接点を作る足がかりとしては入りやすく、滞在先での居場所が早く決まる。

仕事を地域側に少し寄せていく方法は地方創生テレワークとはが参考になる。関わり方から探したい人は、FLASPOのような受け入れ側の動きが見える場から入ると、いきなり住まいを決めるより試行の幅が広く取れる。

よくある質問

貯金がいくらあれば始められるのか。決まった額はないが、判断の軸になるのは総額ではなく月々の上積みである。滞在先の家賃と往復の交通費を足した金額を、今の収支に加えても回るかどうか。回らないなら、宿泊を都度手配する形から始めて固定費を持たない選択もできる。

転職したら続けられなくなるのではないか。その可能性はある。だからこそ住まいは短い契約から入るほうがよい。数年単位の定期借家や購入に踏み切るのは、働き方が落ち着いてからでも遅くない。逆にいえば、勤務地の自由度を条件に入れて次の職を探す動き方もできる。

親や周囲に説明しづらい。腰が据わっていないと見られることを気にするなら、期限を切って伝えるのが早い。一年試して判断する、という形にすれば話が通りやすくなる。実際、最初の一年で頻度も滞在先も見直すことになるので、期限つきの説明は実態にも合っている。

補助が使えないなら意味がないのではないか。給付を目的にするなら向いていない。得られるものは現金ではなく、仕事の選択肢が一つの地域に縛られなくなることと、都市だけでは作れない人間関係のほうにある。そこに価値を感じないなら、無理に始める理由はない。


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