事例は「だれがやっているか」で分けると見通しがよくなる
SDGsの事例を集めたページを開くと、自治体の宣言も大企業の環境目標も高校の授業も同じ並びで出てくる。読み終えても自分に関係のある話がどれだったか残らないのは、規模も目的も違う取り組みが一列に並んでいるからだ。
整理の軸は、主体に置くのが扱いやすい。自治体は計画と予算を動かし、企業は事業のやり方そのものを変え、学校は人を育て、地域の住民は日々の暮らし方を変える。動かせる資源が違えば、取り組みの形も成果が出るまでの時間も変わる。
もう一つ確かめたいのは、その事例が何年続いているかだ。初年度の華やかな発表だけが残り、数年後の数字が公表されていない取り組みは少なくない。継続していること自体が、その仕組みが現場で回っている証拠になる。
以下では四つの主体について、公表されている数字が確認できるものを中心に見ていく。数字が付いている事例は、後から検証できるという点でも参考にしやすい。
| 主体 | 代表的な枠組み | 公表されている数字 | 関係の深い目標 |
|---|---|---|---|
| 自治体 | SDGs未来都市(内閣府) | 2018〜2026年度で累計219都市 | 11・17 |
| 地域・住民 | ゼロ・ウェイスト宣言(徳島県上勝町) | 13種類45分別、リサイクル率8割超 | 12 |
| 企業 | 各社の事業を通じた取り組み | いずれかの目標に注力する企業が72.0% | 8・12・13 |
| 学校 | ユネスコスクール/ESD | 国内の加盟校は約1,065校 | 4 |
自治体が使っている枠組みはSDGs未来都市
国の制度として最も広く使われているのが、内閣府が2018年度に始めたSDGs未来都市だ。自治体が提案を出し、選ばれると国の支援を受けながら計画を進める。内閣府の公表資料によれば、2018年度から2026年度までの累計で219都市、220自治体が選定されている。このうち特に先導的な取り組みを自治体SDGsモデル事業として選ぶ仕組みもあり、こちらは累計70都市にのぼる。
選定された自治体の提案書は公開されており、どの目標に何年で何をするかが書かれている。同じ人口規模の町がどんな課題を挙げているかを読むだけでも、自分の地域と比べる材料になる。宣言だけで終わらせず、既存の総合計画や地方版総合戦略に組み込んでいるかどうかが、その後の差になりやすい。
一方で、選ばれること自体が目的になってしまう危うさも指摘されてきた。提案の中身が既存事業の並べ替えにとどまれば、住民の暮らしは何も変わらない。地方創生の成功事例を見ても、続いている取り組みには担い手と財源の見通しが書き込まれている。
住民が主役になった町の例
徳島県上勝町は、人口1,500人ほどの山あいの町だ。ごみの焼却炉を2001年に閉じ、2003年には自治体として日本で初めてゼロ・ウェイストを宣言した。財政的にも地理的にも、焼却と埋め立てを続けることが難しかったという事情が出発点にある。
現在、町民は家庭のごみを13種類45分別に仕分け、収集車に頼らず自分でごみステーションに持ち込む。町のゼロ・ウェイストポータルが示すとおり、リサイクル率は8割を超える水準に達している。環境省の一般廃棄物処理事業実態調査では、全国のリサイクル率は令和4年度で19.6%にとどまる。四倍の開きは、設備の差ではなく住民の手間のかけ方から生まれている。
この事例が参考になるのは、設備投資ではなく仕組みと習慣で達成している点だ。分別の細かさは負担でもあるため、町では使えるものを持ち寄る場や、量り売りの店といった受け皿が並行して整えられてきた。他の自治体がそのまま真似できるわけではないが、「何を減らすと誰が楽になるか」を先に決めてから手段を選ぶ順序は、規模を問わず応用できる。
企業の取り組みは何が起きているのか
企業の事例は華やかな発表が目立つが、全体の傾向は調査で押さえたほうが早い。帝国データバンクが毎年行っている企業の意識調査の2026年版では、17目標のいずれかに力を入れている企業は72.0%で、前年の73.2%からわずかに下がった。
さらに目を引くのは、SDGsに前向きだと答えた企業が52.6%と、前年から0.7ポイント減って2年続けて低下したことだ。調査は、インフレや人手不足で経営環境が厳しくなり、取り組みに割ける余力が縮んでいる可能性を挙げている。掛け声の段階を過ぎて、続けられるかどうかが問われる時期に入ったと読める。
同時に、取り組んでいる企業の47.8%が何らかの成果を実感しているという結果も出ている。多かったのは従業員満足度の向上や定着率の改善で、環境負荷の削減よりも人に関する効果が先に表れている。人材の確保が難しい地域の中小企業ほど、この点は無視できない。商社のような業界別の動きと比べると、規模の違いによる温度差も見えてくる。
この調査を地域の側から読むと、示唆はもう一段ある。前向きだと答える企業が減っている局面では、自治体が旗を振っても同じ歩調で動く事業者は増えにくい。反対に、人材の定着という目に見える効果が確かめられている分野なら、説得の材料になる。取引先や採用の場面で何を聞かれているかを起点に置くほうが、理念から入るより話が進みやすい。
学校で進んでいることと、その後の受け皿
教育の現場では、SDGsという言葉が広まるより前からESD、つまり持続可能な開発のための教育が進められてきた。その拠点として位置づけられているのがユネスコスクールで、文部科学省によれば2005年に16校だった国内の加盟校は、2026年3月末時点で約1,065校まで増えている。
授業の中身は、地域の川の水質を調べる、商店街の売れ残りを追う、外国にルーツのある住民に話を聞くといったものが多い。教科書の目標を覚えることではなく、自分の住む場所で課題を見つけて手を動かすところに主眼がある。高校では探究の時間が制度として位置づけられ、地域の企業や自治体が相手役になる例も増えた。
課題は、卒業後の受け皿である。熱心に地域と関わった生徒が進学や就職で町を離れ、関係が切れてしまうことは珍しくない。学んだ側が大人になってから地域に関わり直せる道をどう用意するかは、学校だけでは解けない。人と地域のつながりを長く保つ仕組みづくりは、FLASPOが取り組んできた領域でもある。
よくある質問
Q. 小さな会社でも参考にできる事例はありますか。
A. あります。調査では人に関する効果を実感した企業が多く、働き方の見直しや地元からの調達など、既存の業務を組み替える取り組みが中心です。新しい事業を立ち上げなくても、今やっていることを目標と結びつけて説明できる形に整えるところから始められます。
Q. 自分の自治体がSDGs未来都市かどうかはどこで分かりますか。
A. 内閣府の地方創生推進事務局が選定都市の一覧を公開しており、年度別・地域別に確認できます。提案書も合わせて読めるため、その自治体が何を課題として挙げたかまで追えます。
Q. 事例をそのまま自分の地域に持ち込んでも大丈夫でしょうか。
A. 前提条件を確かめる必要があります。上勝町の分別も、焼却炉を閉じざるを得ない事情と住民の合意があって成り立っています。数字だけを目標にして手段を移植すると、負担だけが残ることがあります。
Q. 学校の探究学習で地域と組むには、どこに相談すればよいですか。
A. 自治体の地方創生や環境の担当課、商工会や地域の中間支援組織が窓口になることが多いです。ユネスコスクールに加盟している近隣の学校に、これまでの相手先を尋ねる方法もあります。
Q. 個人でできることは何かありますか。
A. 住んでいる自治体の計画に意見を出す、地域の活動に参加する、買う先を選ぶといった行動が該当します。効果が見えにくく感じられますが、分別の徹底のように、住民の行動の積み重ねが数字を動かした例は実際にあります。
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