EUは地域の起業に誰が金を出すか|LAG2,678と起業率10.4%

並べる前に、数え方の違いを押さえる

海外は起業が盛んだという話は、だいたい開業率の国際比較の図から来ている。ところが出どころの資料そのものが、その比較に注意を付けている。中小企業庁の創業政策のあり方検討会の報告書は、開業率の国際比較の図に「国により統計やデータの性質が異なるため、単純比較はできないことに留意」と注記している。

実際、元になる統計は国ごとに別物である。日本は厚生労働省の雇用保険事業年報、米国はCensus BureauのThe Business Dynamics Statistics、英国は国家統計局のBusiness demography、ドイツとフランスはEurostatが使われている。日本の創業者数は雇用保険事業統計の保険関係新規成立事業所数で捕捉されるため、雇用を伴わない個人事業主は入らない。報告書はこの点を明記したうえで、従業員を雇用する成長志向の事業者を捉える指標として使うと説明している。

そこで、海外の事例を調べるときに持ち帰れるのは比率そのものではなく、どういう単位で数え、何に金を回しているかという仕組みの部分になる。EUはその仕組みが条文と数字で公開されているので、地域の起業を支える構造を比べる材料になる。

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EUの起業率は10.4%、廃業率は9.2%

Eurostatの事業所動態統計は、各国の統計ビジネスレジスターをもとに企業の誕生、生存、消滅を追っている。2026年10月時点のデータでは、2024年のEUのビジネスエコノミーに3400万社が活動しており、そのうち10.4%にあたる350万社がその年に生まれた。この350万社が約370万人分の雇用を生んでいる。

国ごとの幅は大きい。起業率が最も高いのはリトアニアの17.5%、次がポルトガルの16.1%で、マルタとフランスも14%を少し超えた。低いのはオーストリアの6.3%で、デンマーク、ドイツ、イタリアはいずれも8%を下回る。廃業率は暫定値でエストニアが29.2%、アイルランドが16.9%、リトアニアが15.6%と高く、低いのはギリシャの3.9%とマルタの4.4%だった。2023年の確定値ではEU全体の廃業率が8.1%である。

生まれた企業がどれだけ雇用を担うかも国で違う。新設企業の雇用が全体に占める比率は、ルクセンブルクの1.0%からポルトガルの5.7%まで開いた。起業の数が多い国で雇用の比率も高くなる傾向があり、同じ「起業が活発」でも中身が違うことが見える。

EUが見ているのは、残った企業が伸びたかどうか

Eurostatの統計には生存の追跡が組み込まれている。2019年から2023年に生まれて2024年も活動していた企業は、活動中の全企業の29%を占めた。さらに雇用の伸びを年齢別に出しており、創業5年目の企業は2019年と比べて72%多い人を雇い、3年目は64%、1年目は37%多かった。上下水道では129%、電気・ガス・蒸気では128%と、5年で雇用が2倍を超える分野もある。

高成長企業も別に数えられている。2024年のEUでは約18万200社が高成長企業にあたり、従業員10人以上の企業の10.0%を占め、1410万人を雇用していた。比率はアイルランドの19.9%からキプロスの2.2%まで分かれる。分野別では芸術・娯楽・レクリエーションが15.6%で最も高く、情報通信15.0%、宿泊・飲食サービス14.4%が続いた。

日本側の生存率は検討会の報告書に図として載っている。創業時を100.0%とすると1年後94.0%、3年後86.6%、5年後80.7%で、欧米より高い。ただし報告書は、日本の数字がデータベースに企業情報が収録されている企業のみの集計であり、収録までに時間を要するため実際の生存率より高めに算出されている可能性があると断っている。諸外国の値は2015年から2021年に起業した企業の平均である。生存率が高いこと自体は、新陳代謝が進んでいないという指摘にもつながる。

農村の資金配分を決めるのは、住民でつくる組織である

EUで地域の起業に金が流れる経路には、LEADERという枠組みがある。農村振興のための欧州農業基金から出る資金を、地域住民や事業者、自治体でつくるローカル・アクション・グループが、自分たちで書いた地域開発戦略に沿って配分する仕組みである。欧州委員会のLEADERの概況によると、2023年に2600を超えるグループが動き始めた。

項目 2023〜2027年の計画値
想定されるLAGの数 2,678
LEADERに充てる基金額 約50億ユーロ
共通農業政策の第2の柱に占める比率 7.7%
加盟国平均の配分比率 8%弱
最低比率の5%にとどめた加盟国 7か国
ドイツが国の基金から充てる比率 15%
前期より比率を上げた計画 28計画のうち24

注目したいのは下限が決まっている点である。配分比率には5%という最低線があり、7か国はその最低限にとどめた一方、ドイツは国の基金の15%をグループの管理下に置いた。エストニアとスペインも10%を超える。28の計画のうち24が前期の農村振興計画より比率を上げており、この経路に寄せる流れが続いている。

使い道は小口に寄っている。20万ユーロ未満の案件を中心に据える計画が多く、テーマとしては経済活動の多角化、短い流通経路、地域の食料生産、気候変動対策と再生可能エネルギー、循環型バイオエコノミー、農村のサービス、小規模なインフラ、社会的包摂、社会イノベーション、文化遺産が挙げられている。若者の起業意欲、ジェンダー平等、デジタル移行は重点分野として各国の計画に書き込まれた。

日本の仕組みと見比べると、違いは三つに絞られる

一つめは誰が案件を選ぶかである。LEADERでは住民や事業者を含む組織が選定手続を持ち、戦略の文章も地域で書く。日本の地域起業支援は自治体や支援機関が窓口になるのが基本で、選定の主体が住民側にある形は一般的ではない。

二つめは下限の有無である。EUでは基金のうち一定割合を必ずこの経路に回すことが決まっている。日本の交付金は事業ごとの採択で額が動くため、地域に届く最低額があらかじめ保証される構造にはなっていない。配分の安定度が違えば、地域側が立てられる計画の長さも変わる。

三つめは案件の大きさである。20万ユーロ未満を中心にするという設計は、大きな施設ではなく小さな試みを多数通すことを前提にしている。日本でも小規模な創業を前段階として捉える議論が進んでおり、評価指標を開業率から創業者数へ移す案が出ている。その経緯は指標の見直しに、国内の開業率の地域差は都道府県で2.6倍開く差にまとめてある。

よくある質問

EUの起業率10.4%と日本の開業率を直接比べてよいのか。よくない。Eurostatは統計ビジネスレジスターに載る企業を数え、日本の開業率は雇用保険の関係が新たに成立した事業所を数える。母集団が違うので、差の大きさをそのまま解釈すると見誤る。

ローカル・アクション・グループは具体的にどんな単位なのか。地域ごとに区域を定め、そこで地域開発戦略を作って案件を選ぶ組織である。欧州委員会の概況は、戦略が地域の現場で書かれ始めた段階だと述べており、区域の切り方や人口規模は加盟国ごとに決まる。グループ数と配分比率が国で大きく違うのも、この裁量の幅によるものである。

欧州の数字を卒業論文や面接で使うときの注意点は何か。年次と確定・暫定の区別を必ず書くことである。Eurostatの廃業率は暫定値と確定値が同じ記事に並び、エストニアの29.2%は暫定、EU全体の8.1%は2023年の確定値である。断りなしに並べると、読む側が同じ年の数字だと受け取ってしまう。

日本に同じ仕組みを持ち込めるのか。制度の移植より先に、配分の決め方という論点として読むほうが実用的だと考えられる。誰が案件を選び、どれだけの額を地域側が握るのか。この二点は日本の交付金の議論でも繰り返し出てくる。FLASPOのような場で地域の事業に関わるときも、同じ問いを立てると話が具体的になる。

海外の一次情報はどこから探せばよいか。EUの統計はEurostatのStatistics Explainedに解説と数値が並び、農村振興の制度は欧州委員会のネットワークのサイトに概況が置かれている。どちらも年次と出典データセットの名前が明記されているので、引くときはその表記ごと写しておくと後から検算できる。


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