地域PR動画が公開5日で消えるまで|取り下げに至る型と確認の順番

公開から削除までが5日だった事例

地域を売り込む動画が、公開の直後に取り下げられることがある。鹿児島県志布志市がふるさと納税の返礼品である養殖うなぎを紹介するために公開した動画は、2016年9月21日に出され、26日のうちに削除された。当時の報道によれば、うなぎを若い女性に見立てた描写に対して批判が相次ぎ、市は公式サイトで視聴者に不快な思いをさせたとして謝罪した。

報道では、水着姿の少女が「養って」と語りかける場面が性差別だと受け取られ、少女の監禁を連想させるという指摘も出たとされている。市の担当者は、批判が上がることを予期していなかったと話し、意見の電話が1日に50件程度あったと伝えられた。英国の新聞を含む海外の媒体も取り上げ、削除後も複製された動画の拡散が続いた。

この事例で注目したいのは、時間の短さである。公開から削除までが5日で、その間に市は内容の説明と謝罪を同時に出す必要に迫られた。企画から公開までには数か月をかけたはずだが、取り下げの判断は週末を挟んだ数日で下されている。作る時間と失う時間は釣り合わない。

失われるのは動画だけではない。制作に関わった事業者や出演者、取材に応じた生産者が、意図しない形で名前を並べられる。返礼品として売り出したうなぎそのものの評価にも話が及んだ。地域ブランドの失敗事例と同じく、影響は企画の外側へ広がっていく。

募集中の地域コンテスト

読んだら、地域に行ってみよう

地域が出したお題に、オンラインでアイデアを応募できます。受賞すると、現地に無料で招待されます。

募集中の地域をすべて見る

残すという判断が招くもの

取り下げに至らなくても、評価が割れたまま残る例がある。宮城県は2017年の夏に「仙台・宮城【伊達な旅】夏キャンペーン2017」を展開し、タレントを起用したPR動画を制作した。知事と観光のキャラクターが並んで出演し、夏でも涼しい土地への来訪を呼びかける内容だった。

公開後、この動画は意図とは別の文脈で広がった。2017年7月20日付の記事によれば、動画は性的な連想を指摘する声とともに拡散し、再生回数は7月24日の時点で220万回に迫った。20日の時点では削除されておらず、再生は伸び続けていたとされる。

同じ記事は、同じ時期に飲料会社が公開した動画が性的な示唆への批判を受け、公開から約30時間で削除されたことも伝えている。削除時点の再生は約2万7千回だった。短時間で引いた企業と、残した自治体という対照が同じ夏に並んだことになる。

残した側で再生回数だけが伸びた状態をどう評価するかは、公開前に何を目標に置いていたかで決まる。涼しさを伝えて夏の来訪者を増やすことが目的だったなら、別の理由で集まった220万回は達成を示す数字ではない。注目が集まったという事実と、目的が果たされたという判断は、分けて扱う必要がある。

難しいのは、賛否が分かれた段階で引くか進むかを決める基準を、公開後に作れないという点である。基準がなければ、担当者の判断は寄せられた意見の量に流される。何を達成できなければ取り下げるのかを、公開の前に文書で決めておく必要がある。

失敗は表現だけで起きるわけではない

取り下げや批判は目に見えるため失敗として語られやすいが、静かな失敗のほうが数は多い。公開され、数千回再生され、誰にも触れられずに残っている動画である。この種の不首尾は、表現ではなく指標の置き方から生まれる。

再生回数を目標にすると、作るものは注目を集める形へ寄っていく。一方で地域が本当に必要としているのは、移住の相談に来る人や、産品を買い続ける人である。国土交通省が2025年6月に公表した関係人口の実態把握の結果では、18歳以上の約1億275万人のうち約2,263万人が特定の地域に関わっているとされ、訪問する形が約1,884万人、訪問しない形が約379万人と推計されている。

こうした推計が示すのは、関わりには段があるということである。動画を見た人がいきなり移り住むことはまずない。訪ねる、買う、通う、滞在するという段を一つずつ上がる。したがって動画に求められる役割は、次の段に進む窓口まで人を運ぶことであり、再生回数はその途中の数にすぎない。

測るなら、動画から移住相談のページに来た人の数、産品の注文の変化、現地の体験プログラムへの申し込みのように、次の行動に現れる数字を選ぶ。測れないものを目標に置くと、あとから成果を語るときに再生回数しか手元に残らない。ハコモノはなぜ失敗するのかで見た構造と同じ、目的と指標のずれである。

確認の順番は公開前に決まっている

表現をめぐる判断は、担当者の感覚に委ねなくてよい。自治体向けの手引が整備されており、島根県は男女共同参画の視点からの表現ガイドラインを令和6年3月に改訂版として公表している。平成15年度に作られた公的広報のための手引きを引き継いだもので、見直したい表現を五つの観点で整理している。

観点は、性別が偏った表現になっていないか、性別で役割やイメージを固定していないか、主従や上下の関係を思わせる描き方になっていないか、性別によって異なる言い方をしていないか、そして目を引くためだけの表現になっていないか、である。最後の観点には、内容に関係なく人目を引くために女性の姿態や身体の一部を使っていないかという項目が置かれている。

同じガイドラインは、確認の時点を四つに分けている。段階ごとに問いが決まっていれば、公開直前にまとめて見る負担が減る。

段階 確かめること 抜けたときに起きること
企画 伝える内容と対象、訴求の点は何か 目を引く手段が目的にすり替わる
原稿 写真や文の中で役割が固定されていないか 意図しない固定観念が残る
発注 趣旨を事業者に説明し理解を得たか 委託先の判断で演出が決まる
最後の確認 担当者以外の複数の目を通したか 内部で誰も疑問を出せなくなる

発注の段階が独立して置かれている点は見落としやすい。外部の制作会社に任せると、話題性を取る演出が提案されることがある。趣旨を伝えずに成果物を待てば、判断は委託先に移る。最後の確認では、男女双方の複数人の目を通したかが問われており、担当課だけで決めない仕組みが前提になっている。

学生が制作に関わるときの段取り

大学の地域連携の授業やプロジェクトで、学生が動画の制作を担う場面は増えている。費用を抑えられること、若い世代の目線が入ることが期待される一方、責任の所在が曖昧になりやすい。公開した媒体が自治体の公式アカウントであれば、批判は自治体に向かう。

始める前に決めておきたいのは四つである。誰の名義で公開するのか、企画の可否を最終的に判断するのは誰か、公開後に問題が起きたときの連絡の順番はどうなるか、取り下げる判断は誰が下すのか。文書にしておけば、当日に意見が割れても手順で動ける。

撮影の相手への説明も同じ重さを持つ。何のための動画か、どこで公開するか、いつまで残るか、顔や名前を出すかを伝え、同意を記録に残す。住民が映った映像は数年後まで検索で出てくる。出演を断りにくい関係にある人には、断る選択肢があることを明示して伝える必要がある。

仕上げの前に、関わっていない人に見せる工程を入れたい。企画を知らない相手が最初の15秒で何を受け取るかが、公開後に起きることに近い。ご当地キャラの失敗はどこで起きるかでも触れられているように、内部で盛り上がった案は外からの見え方を確かめにくい。学生と地域の協働の事例はFLASPOでも紹介している。

よくある質問

炎上した動画でも知名度が上がるなら得ではないか。短期の注目と長期の評価は別に動く。検索した人が最初に見るのが批判の記事になると、その状態が数年続く。地域の名前で検索したときに何が並ぶかを基準にすれば、話題性を取る判断は割に合わないことが多い。

削除すれば問題は収まるか。志布志市の例では、削除後も複製された動画の拡散が続いたと報じられている。公開した時点で手を離れると考えるほうが実態に近い。削除は必要な対応だが、それだけで元に戻るわけではなく、経緯の説明を残すほうが後の信頼につながる。

表現のガイドラインは制作の自由を縛らないか。多くの自治体の手引は、特定の表現を禁じるものではないと明記し、参考として配慮の観点を示す位置づけを取っている。島根県のものも、改訂前から参考資料として作られてきた。禁止の一覧ではなく、企画段階の問いの集まりとして使うのが筋である。

成果を何で報告すればよいか。再生回数のほかに、次の行動に現れる数字を一つ決めておく。移住相談の件数、返礼品の注文数、体験プログラムの申し込み、現地のイベントの参加者。動画の前後で比べられる数字を一つ持てば、続けるか作り直すかの判断ができる。

小さな自治体でも外部に委託すべきか。宮崎県小林市の取り組みを伝えた記事では、話題を集めた動画の背景に、外部への委託と、それ以前から続けていた内製の活動の両方があったと紹介されている。委託するかどうかより、自分たちで何を伝えたいかを言葉にできているかが先に来る。


アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

FLASPO

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。

FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。

賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。

コンテストを探す▶︎

FLASPOで募集中のコンテスト

自治体や企業が出したお題に、学生・若者がオンラインでアイデアを応募できます。募集中のものも、これまでのお題と結果も、一覧で見られます。