移住の費用を見積もるとき、最初に動く金額は家賃である。食費や光熱費が県で何パーセントか違うのに対し、家賃は倍近く変わる。総務省が2026年9月18日に公表した消費者物価地域差指数を開くと、住居の物価は東京都が129.8、岡山県が79.1で、10の費目のなかで最も大きく開いていた。全国の家賃の実額と並べて読むと、どこで何が効いているかが見えてくる。
全国の家賃は1か月59,656円、5年で7.1パーセント上がった
相場を語る前に全国の水準を確かめたい。総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、借家のうち専用住宅の1か月当たり家賃は59,656円だった。2018年の55,695円から7.1パーセント上がっている。
借家の種類別に分けると幅が出る。公営の借家が24,961円、都市再生機構や公社の借家が71,831円、民営借家の木造が54,409円、民営借家の非木造が68,548円、社宅などの給与住宅が37,993円である。公営と都市再生機構の間では2.9倍の差がつく。同じ県のなかでも、どの種類の借家に入るかで負担は大きく変わる。
上がり方も種類でそろっていない。2018年から2023年の5年間の伸びは、給与住宅が11.6パーセント、公営が7.6パーセント、民営の非木造が7.0パーセント、民営の木造が4.5パーセント、都市再生機構や公社が2.8パーセントだった。民間の集合住宅と社宅の値上がりが大きく、公的な賃貸の伸びは抑えられている。移住先で民間の賃貸を借りる前提なら、5年前の相場観はもう使えない。
住居の物価は東京都129.8、岡山県79.1
県ごとの水準はどう測るのか。総務省は小売物価統計調査の構造編で、全国平均を100とした物価の指数を都道府県別に作っている。2025年の結果を住居の費目でみると、最も高いのが東京都の129.8、次いで千葉県111.8、神奈川県110.7である。
| 都道府県 | 住居の指数 | 順位 | 総合の指数 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 129.8 | 1位 | 104.2 |
| 千葉県 | 111.8 | 2位 | 100.5 |
| 神奈川県 | 110.7 | 3位 | 103.3 |
| 埼玉県 | 104.5 | 4位 | 100.2 |
| 京都府 | 102.2 | 5位 | 101.1 |
| 宮崎県 | 101.3 | 6位 | 98.0 |
| 新潟県 | 83.8 | 43位 | 97.8 |
| 滋賀県 | 83.3 | 45位 | 97.7 |
| 石川県 | 82.0 | 46位 | 99.4 |
| 岡山県 | 79.1 | 47位 | 97.7 |
下から数えると岡山県79.1、石川県82.0、滋賀県83.3、岐阜県83.4、新潟県83.8と並ぶ。東京都と岡山県では1.64倍の差がある。興味深いのは順位が所得や都市規模の順になっていない点だ。宮崎県が6位の101.3で全国平均を超え、石川県や滋賀県は下位に沈む。都市圏に近いかどうかよりも、その土地の賃貸住宅の供給量と質の構成が効いている。
この指数には注意点がある。住居の費目には家賃だけでなく設備の修繕や維持の費用も含まれ、持ち家に住む人がもし借りたらいくら払うかを計算した持家の帰属家賃は含まれない。つまり実際に家賃を払っている人が直面する価格の水準を示す数字である。移住を考えて賃貸を探す立場なら、むしろこちらのほうが実感に近い。
10の費目のなかで住居の差がいちばん大きい
なぜ家賃だけがこれほど開くのか。総務省の2025年の結果資料は、10大費目それぞれで最も高い県と最も低い県の比を出している。住居が1.64倍で首位、教育が1.60倍、光熱・水道が1.30倍と続く。
逆にそろっているのは保健医療の1.05倍、交通・通信の1.06倍、食料の1.12倍である。診療報酬が全国一律で決まる保健医療や、全国同一料金の通信料が含まれる交通・通信は、県が変わってもほとんど動かない。食料も流通が全国につながっているため1割強の幅にとどまる。
住居が例外なのは、土地が動かせないからだ。食品は産地から運べるが、住宅はその場所にあることそのものが価格になる。しかも差は広がっている。住居の最大県間倍率は2024年の1.56倍から2025年に1.64倍へ、0.08ポイント拡大した。同じ期間に光熱・水道は0.07ポイント、被服及び履物は0.04ポイント縮んでいる。生活費のなかで家賃だけが地域差を強める方向に動いているという読みになる。移住後の支出をどう組み立てるかは地方移住とは?20代向けメリット・費用・失敗しない方法を解説にも整理がある。
1畳当たりで見ると建物の種類で差がつく
月額だけを比べると広さの違いが混ざってしまう。そこで住宅・土地統計調査は1畳当たりの家賃も出している。借家の専用住宅では全国で3,403円だった。2018年の3,074円から10.7パーセント上がっており、月額の伸び7.1パーセントを上回る。
単価の高さは建物の種類で決まる。民営借家の非木造が4,151円で最も高く、都市再生機構や公社の借家が3,633円、民営借家の木造が2,916円、給与住宅が2,071円、公営の借家が1,246円である。非木造と公営では3.3倍の開きがある。
単価の伸びに目を移すと、5年間で給与住宅が21.9パーセント、民営の木造が13.0パーセント、非木造が8.3パーセント、公営が7.8パーセント上がった。月額の伸びが4.5パーセントだった民営の木造が、単価では13.0パーセント上がっている。これは同じ家賃で借りられる広さが縮んだことを意味する。地方の木造アパートで月5万円台という相場は残っていても、その5万円で入れる部屋は5年前より狭い。広さを含めて比べないと、県をまたいだ比較は成り立たない。
家賃の重さは持ち家率で変わる
家賃の水準が同じでも、その県で暮らす人のうち何割が家賃を払っているかは別の話である。住宅・土地統計調査の付表によれば、2023年の持ち家率は全国で60.9パーセントだった。最も高いのは秋田県の77.1パーセントで、山形県75.0パーセント、富山県74.9パーセント、和歌山県73.8パーセントが続く。
最も低いのは沖縄県の42.6パーセント、次いで東京都44.7パーセント、福岡県52.7パーセント、大阪府54.5パーセントである。沖縄県と秋田県では34.5ポイント離れている。住宅に占める共同住宅の割合も東京都が71.6パーセントで最も高く、秋田県は18.6パーセントにとどまる。賃貸が中心の県と持ち家が中心の県では、住居費が家計に乗る形がそもそも違う。
移住先を選ぶときに効いてくるのは、この二つを掛け合わせた結果だ。持ち家率の高い県では賃貸物件の数自体が少なく、条件に合う部屋を探す難しさが価格に現れないことがある。指数が低いのに空室が見つからないという事態は、秋田県や富山県のような県で起こりやすい。借りる前提で動くか買う前提で動くかを早めに決めておくと、候補地の絞り方が変わる。
住む場所を決める前に通ってみる方法もある。FLASPOのように地域と関わる入口を使えば、住居費の相場を自分の足で確かめてから移住の判断に進める。初期費用を軽くする制度については地方移住の補助金はいくら?国・自治体の支援制度を完全まとめが使える。
よくある質問
都道府県別の家賃の実額はどこで調べられるか。総務省の住宅・土地統計調査の統計表に、都道府県別と市区町村別の1か月当たり家賃が収録されている。政府統計の総合窓口から表を選んで数値を取り出す形になる。調査は5年ごとで、最新は2023年10月1日時点の調査、確報は2024年9月25日に公表された。
物価の指数と実際の家賃はどう違うのか。指数は全国平均を100として相対的な価格水準を示すもので、金額ではない。東京都の住居が129.8というのは、全国平均と同じ条件の住居を借りた場合に約1.3倍かかるという意味である。間取りや築年数や駅からの距離をそろえて比べた値なので、実際に払う金額の比較には家賃の実額を使う。
家賃の安い県に移れば生活費は下がるのか。住居費は下がるが総額は別に見る必要がある。岡山県は住居の指数が47位の79.1だが、総合の指数は97.7で全国平均とそれほど離れていない。石川県は住居が46位の82.0なのに総合は99.4である。寒い地域では光熱・水道が重くなり、車が必要な地域では交通費が増える。費目ごとに足し直さないと差は見えてこない。
共益費や管理費は家賃に含まれているか。住宅・土地統計調査の家賃には含まれず、共益費と管理費は別の表で集計されている。実際に毎月払う額は家賃にこれらを加えた金額になるため、物件を比べるときは両方を足して並べる。駐車場代が別になる地域もあり、車が前提の土地では月額が数千円から1万円ほど上積みされる。
相場を調べる時期によって数字が変わるのはなぜか。出典が違うからである。住宅・土地統計調査は5年ごとの大規模調査で、入居中の世帯が実際に払っている家賃を集める。民間の情報サイトが出す相場は募集中の物件の募集賃料を集めたもので、新しい物件に寄るぶん高めに出やすい。古い契約が残っている地域では、実際の支払額と募集賃料の差が大きくなる。
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