土壁を落として断熱材を入れ、柱を見せる。梁を残して間取りを抜く。古民家の改修は、こうした「やりたいこと」から話が始まる。ところが令和7年4月1日以降に工事に着手するものについて、木造2階建ての住宅で行う工事の扱いが変わった。同じ内容の工事でも、着手前に建築確認を受けなければならないものと、そうでないものがある。段取りを決める前に、その線がどこに引かれているかを確かめておきたい。
工事の呼び方と、法律上の区分は別
リノベーション、フルリフォーム、改修。現場で使われる言葉はどれも建築基準法の用語ではない。法律が区別しているのは、増築、改築、大規模の修繕、大規模の模様替の四つである。国土交通省住宅局建築指導課の説明資料では、増築は建築物の延べ面積を増加させること、改築は全部または一部を除却したうえで用途・規模・構造の著しく異ならない建築物を建てることと定義されている。
大規模の修繕は、建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕を指す。大規模の模様替は、同じ範囲について行う過半の模様替である。修繕と模様替の違いは材料と仕様にある。同資料は、劣化した部分を既存のものと概ね同じ材料や仕様により造り替える工事を修繕、異なる材料や仕様により造り替える工事を模様替と説明している。土壁を落として断熱材と石膏ボードに置き換えるなら、後者にあたる。
令和7年4月の改正で何が動いたか。国土交通省の整理によれば、都市計画区域等の区域内で審査省略制度、いわゆる4号特例の対象だった小規模の木造建築物について、増築・改築をしようとするときにはすべての規定について審査・検査がされることとなった。さらに、小規模の木造建築物について大規模の修繕・大規模の模様替をしようとするときには、新たに建築確認・検査を要することとなった。区域外で対象外だった増築・改築も、新たに確認の対象になっている。
言い換えれば、以前は設計者と施工者の責任で進められた工事の一部が、着工前に第三者の審査を通る仕組みに移った。確認済証の交付を受けなければ工事に着手してはならないため、工程表の先頭に審査の期間が入ることになる。
境目は「主要構造部の一種以上について過半」
では、どこまでが大規模にあたるのか。鍵は主要構造部という言葉と、過半という数え方の二つである。主要構造部とは壁、柱、床、はり、屋根または階段をいい、構造上重要でない部分は除かれる。除かれるのは間仕切壁、間柱、付け柱、小ばり、ひさし、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、局部的な小階段、屋外階段などである。
過半かどうかの判断は、主要構造部ごとに行う。国土交通省のフローチャートでは、部位によって数える単位が違うことが明示されている。この単位を取り違えると、判定がまるごとひっくり返る。
| 主要構造部 | 過半の判断に使う単位 |
|---|---|
| 壁 | 総面積に占める割合 |
| 柱 | 総本数に占める割合 |
| はり | 総本数に占める割合 |
| 床 | 総水平投影面積に占める割合 |
| 屋根 | 総水平投影面積に占める割合 |
| 階段 | その階ごとの総数に占める割合 |
古民家で考えると、屋根と壁が引っかかりやすい。瓦を全面的に葺き替えれば、屋根の総水平投影面積に対する割合は当然に過半を超える。外周の土壁をすべて造り替えれば壁も同じである。一方で柱は、傷んだ足元だけを継ぎ足す根継ぎであれば、総本数に対する割合が過半に届かないことも多い。工事の見た目の大きさと、法律上の割合は一致しない。
該当しない例として同資料が挙げているのは、過半に至らない範囲を造り替える改修と、既存の階段の上に新たな仕上げ材を被せる改修である。階段の上り位置を変えるために一部の段数だけを直す工事も、過半に至らなければ大規模にはあたらないとされている。ただし、あくまでも例であり実情に応じて判断することと注記がある。
手続きが要らない範囲も残っている
すべての改修が確認申請を必要とするわけではない。国土交通省は、キッチン、トイレ、浴室等の水回りのみのリフォームと、バリアフリー化のための手すりやスロープの設置工事については、従来通り建築確認手続は不要としている。主要構造部を触らない工事は、そもそもフローチャートの入口で外れる。
建物の規模でも変わる。令和7年4月1日以降の手続きを整理した表では、階数2以上または延べ床面積200平方メートル超の建築物が2号建築物とされ、増築等と大規模の修繕・模様替の両方について建築確認と完了検査の対象になる。これに対し、1号と2号のいずれにも当たらず都市計画区域等の区域内にある3号建築物は、建築の際には確認の対象となるものの、大規模の修繕・模様替については手続不要とされている。
つまり平屋で延べ面積200平方メートル以下の古民家なら、屋根を全面的に葺き替えても確認申請は要らない。2階建てなら要る。同じ集落の同じような家でも、階数ひとつで段取りが変わる。内見の段階で階数と延べ面積を押さえておくと、後の見通しが立つ。
なお、手続きが不要であることは基準に適合しなくてよいという意味ではない。同資料は、建築物は建築物として存在する限り常に建築基準法に適合していることが必要であり、手続が要らなくても法適合は必要である点に注意を促している。
物件の階数や面積は、自治体の空き家バンクの登録情報でも確認できる場合がある。使い方は空き家バンクとは?仕組み・利用法・メリット5つ・デメリット4つで整理した。
検査済証がない家から、どう始めるか
古民家の改修で最初に突き当たるのが書類である。建てたときの確認済証も検査済証も残っていない、という状況が普通に起こる。国土交通省の資料が載せている完了検査の受検状況を見ると、約30年前には30パーセント台だったところ、平成11年の建築確認・検査の民間開放や金融機関の融資における検査済証の活用等により受検率が向上したとある。昭和に建った家に書類がないのは、例外ではなく当時の平均的な姿だった。
この状態から進めるための手順として、国土交通省は既存建築物の現況調査ガイドラインを作成・公表している。建築士が行う現況調査の手順と方法、調査報告書の作成方法を解説したもので、流れは二段構えになっている。調査1では、直近の建築等工事について検査済証の交付の有無と工事の着手時点を調べる。調査2では現地に入り、現行の規定への適合状況と、直近の工事着手時の規定への適合状況を確認して既存不適格である規定を特定する。
この切り分けが効いてくる。建築基準法令の改正や都市計画の変更等により建築物が規定に適合しなくなった場合、その規定は適用除外となり違反とはならない。これが既存不適格である。ガイドラインでは、適合状況が既存不適格である規定については緩和を適用し、不適合または不明の規定については現行の規定へ適合させる、という整理になっている。書類がなく着手時点も特定できなければ、現行の規定に合わせるほかない。
作成した調査報告書は確認申請図書に活用できるとされている。つまり調査は申請の前段であって、無駄な費用ではない。改修の話を工務店に持ち込む前に、建築士に現況調査を頼めるかどうかを確かめておくと、後の手戻りが減る。
段取りと依頼先の決め方
必要な手続きが見えたら、時間の配分を決める。国土交通省は改修にあたって三つのステップを示している。第一に改修が増改築または大規模修繕・模様替に該当するかを確認する。第二に現行の建築基準法令の規定への適合状況を調査する。第三に既存不適格である規定については緩和を適用して設計する。該当せず、適合しない規定もなければ手続きは不要で、法令に違反しないように改修を実施すればよい。
工程に組み込むべき期間もある。確認申請から確認済証の交付までには一定の審査期間が必要であると国土交通省は繰り返し注意している。消防同意についても、施行日前は都市計画区域等の区域内で3日以内、区域外では対象外だったものが、施行日以後は7日以内に変更されている。着工日から逆算するのではなく、申請日から積み上げて考えたほうが実態に合う。
依頼先の選び方も、この構造から決まる。設計者が現況調査から確認申請までを担い、施工者が工事を受ける形が基本になる。工務店に一括で任せる場合でも、建築士が関与しているか、現況調査ガイドラインに沿った報告書を作れるかを聞いておきたい。都市計画区域の内外や階数によって手続きが変わるため、その土地での判断に慣れているかどうかも差になる。
遠方の物件を改修するなら、通う頻度も費用に跳ね返る。二拠点での暮らし方は二地域居住とは?費用・メリット・デメリット・始め方を解説に、移り住む前の準備は田舎暮らしの始め方|20代のメリット5つ・デメリット3つにまとめがある。地域の人と先に知り合っておく手段としては、FLASPOのような地域体験のプログラムもある。
よくある質問
土壁を断熱材に替えるのは修繕ですか模様替ですか
模様替にあたる。国土交通省は、既存のものと概ね同じ材料や仕様により造り替える工事を修繕、異なる材料や仕様により造り替える工事を模様替と区別している。土壁を落として繊維系断熱材と石膏ボードに置き換えれば材料が変わるため後者になる。外周壁の総面積に対して過半となれば、大規模の模様替として扱われる。
水回りだけ直すなら申請は不要ですか
キッチン、トイレ、浴室等の水回りのみのリフォームは従来通り建築確認手続が不要とされている。ただし配管のために床や壁を大きく開ける場合は、主要構造部に手が及ぶかどうかを見る必要がある。開ける範囲が主要構造部の過半に届くなら判断が変わるため、設計者に図面上で確認してもらうのが確実である。
検査済証がないと改修できないのですか
できないわけではない。現況調査ガイドラインは、検査済証の交付がない場合を含めて手順を示している。直近の工事着手時点が特定できれば既存不適格の緩和を適用でき、特定できなければ現行の規定に適合させる方向で設計する。書類の有無は、工事の可否ではなく設計の自由度に効いてくる。
工事の途中から確認申請が必要だと分かったらどうなりますか
確認済証の交付を受けなければ工事に着手してはならないため、着工後に判明すれば工事を止めて手続きを整えることになる。判定は主要構造部ごとの割合で決まるので、解体を進めてから範囲が広がったと分かる事例が起こりうる。契約前に、範囲が広がった場合の扱いを設計者と施工者の双方に確認しておきたい。
出典
国土交通省住宅局建築指導課「建築物の改修における建築基準法のポイント説明会」/国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」/国土交通省「令和4年改正 建築基準法について」
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