様式を定めた法令はどこにもない
手書きか入力か、何字書けば足りるのか、空欄を残してよいのか。迷いの多くは「正解の様式がどこかにある」という前提から生まれている。実際には、新卒採用のESの様式を定めた法令はない。設問も字数も企業が決めているため、他社で通った形式がそのまま通用する保証もない。
参考になるのは履歴書の側の動きである。令和2年にJIS規格の履歴書の様式例が削除されたことを受け、厚生労働省が履歴書の様式例を作成した経緯が、令和3年4月の労働政策審議会の資料に残っている。この様式例では性別欄を男女の選択ではなく任意記載欄に変更し、未記載も可能とした。配偶者、扶養家族数、配偶者の扶養義務、通勤時間の四つの欄は様式内に設けていない。資料は同時に、この様式例に法的拘束力はなく使用は個別の企業が判断できるとしながら、別の様式を使う場合には就職差別につながる項目を含めないよう留意が必要だと述べている。
この方向はESの読み方にも使える。欄がある以上は書くべきだと考える前に、その欄が適性と能力を測るためのものかを見る。判断の軸が外にあると分かれば、設問ごとに迷う回数は減る。
書かせてはいけない事項の一覧がある
家族の職業を書く欄があった、愛読書を聞かれた、本籍を記入させられた。こうした欄に出会ったとき、応募者の側が黙って埋めるしかないのかという問いが残る。厚生労働省は公正な採用選考の考え方として、採用選考時に配慮すべき事項を分類して示している。
| 分類 | 含まれる事項の例 |
|---|---|
| 本人に責任のない事項 | 本籍・出生地、住宅状況(間取り・部屋数・住宅の種類など)、家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)、生活環境・家庭環境 |
| 本来自由であるべき事項 | 宗教、人生観・生活信条、思想、購読新聞・雑誌・愛読書、支持政党、尊敬する人物、労働組合や学生運動などの社会運動 |
| 採用選考の方法 | 身元調査、合理的・客観的な必要性が認められない健康診断、本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用 |
三つめの分類に応募書類そのものが挙がっている点が重要である。適性と能力に関係しない事項を含む応募書類を使うこと自体が、配慮すべき事項として整理されている。応募者としては、こうした欄に当たったときに未記載や「特になし」で進める判断ができる。選考の場で繰り返し踏み込まれる場合は、都道府県労働局やハローワークが相談を受け付けている。
尊敬する人物のように、ESで実際に見かける設問も一覧に入っている。この種の欄に力を入れて作文するより、適性と能力を示す欄に時間を回したほうが選考の趣旨に沿う。
成績証明書はどの程度求められるのか
単位を落とした科目があると、成績の提出を求められる場面が気になる。内閣府の委託調査は、面接や試験を受けるにあたって履修履歴を提出することがどの程度あったかを聞いている。2025年7月から8月にかけて62の大学を通じて行われ、4,415件の有効回答を得たこの調査では、「多くの企業で提出した」が28.2%、「ある程度の企業で提出した」が30.8%、「提出した企業もあったが、少なかった」が23.9%、「提出した企業はなかった」が17.2%だった。
合わせて見ると、六割近くが一定以上の企業で提出している。一方で、まったく求められなかった人が二割近くいる。学部4年生だけで見ると「多くの企業で提出した」は25.8%にとどまり、「提出した企業はなかった」が18.1%を占める。扱いは企業によって分かれており、全社で必須という状況ではない。
ESの段階で成績の数字を自分から書く欄が用意されている場合は、提出書類との食い違いが出ないように揃えておく。履修履歴は証明書の形で後から出るため、ESで誇張した記述は突き合わせの段で崩れる。研究や授業の内容を書く欄は、評価の高さではなく取り組みの中身を示す場所として使うほうが筋が通る。
出す時期と使い回しの線引き
いつから出せるのかという問いには、政府の要請が一応の枠を与えている。広報活動の開始は卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動の開始は卒業・修了年度の6月1日以降とされており、この内容は2017年度の卒業・修了生以降変わっていない。要請の最新版は内閣官房のページで確かめられる。
ただし実際の提出はもっと早い。最初にESを出した時期は卒業・修了前年度の9月までで36.0%に達し、3月までの累積は89.7%になる。提出社数は1社から4社が22.6%、5社から9社が23.7%、10社から19社が24.4%とほぼ三等分で、30社以上も15.7%いる。十社を超える本数になると、一通ずつ書き下ろす方式では間に合わなくなる。
そこで使い回しの線引きが問題になる。経験を記述した部分は共通の素材から組み替えて構わない。崩れるのは志望理由の欄で、企業名だけを入れ替えた文章はその欄で露わになる。志望の筋道の作り方は志望動機の書き方を押さえると組み立てやすい。自己PRとガクチカの欄が並んでいて書き分けに迷うときは、ガクチカと自己PRの違いの整理が使える。
出した後に起きることへの備え
提出が終わると、次は辞退や掛け持ちの判断が来る。内々定を得た後に就職活動を終えるよう強く求められる、いわゆるオワハラを受けたことがあるかという設問では、8.3%が「ある」と答えている。割合としては一割を下回るが、受けた側が一人で抱える構図になりやすい。制度上、内々定を得た後に他社の選考を続けることを禁じる規定はない。
地方から都市部へ応募する場合の負担についても数字がある。遠隔地への就職活動に際して企業側の配慮があったかを、「よくわからない」と答えた人を除いて集計すると、「多くの企業で配慮していた」が35.8%、「ある程度の企業で配慮していた」が44.2%で、合わせて80.0%になる。日程や面接方法の相談は、申し出れば通る余地があるという水準である。
ESの段階でできる備えは、提出した内容の控えを残しておくことに尽きる。面接では書いた文章がそのまま質問の材料になるため、どの企業に何を書いたか分からなくなると答えがぶれる。地域の活動を素材にしているなら、FLASPOのような場で担った役割と相手の反応を、提出時点の記録として残しておくと面接でも使える。
よくある質問
手書きと入力のどちらが有利か。様式を定めた決まりがないため、指定があればそれに従う。指定がない場合、どちらを選んでも評価の対象は中身である。手書きを選ぶなら、提出の山が3月に来ることを考えて清書の時間を先に確保しておく。
指定字数のどこまで埋めればよいか。企業が示すのは上限であり、下限の基準は公表されていない。欄の大きさは答えてほしい分量の目安として置かれているため、半分で止めると材料不足と読まれやすい。字数別の書き分けはガクチカの文字数の考え方が参考になる。
書き間違えたときに修正液を使ってよいか。公的な決まりはない。読み手に渡る書類としての体裁が問われるため、余裕があれば書き直すほうが確実である。入力形式なら提出前の確認画面で誤字を潰しておく。
空欄のまま出してよい欄はあるか。適性と能力に関係しない事項、たとえば家族の職業や本籍を書かせる欄は、配慮すべき事項として整理されている。未記載で進めて差し支えない。一方で設問として立てられた欄を空けると、答える意思がないと受け取られる。
締切の当日に出すと不利になるか。提出のタイミングによる扱いの違いについて、政府の要請は何も触れていない。不利があるとすれば推敲の時間が削られる側である。提出が集中する時期は面接の予定も重なるため、締切の二日前を自分の期限として置くと安全側に寄る。
提出した内容を後から訂正できるか。企業の運用によるため一律には言えない。誤記に気づいた時点で採用窓口に連絡し、判断を仰ぐ形になる。送信前に控えを保存しておけば、どこを直すべきかをすぐ示せる。
成績が悪いとESの段階で落とされるか。履修履歴の提出を求められなかった人が17.2%いることからも、全社が成績を一次の判断に使っているとは言えない。ESで問われるのは経験の中身と説明の筋道であり、評点の高さを前面に出す書類にする必要はない。
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