「自分たちの世代は年金をもらえない」「働いても税金と保険料で持っていかれる」。20代が集まる場でこの話題が出ると、だいたい似た方向に落ち着く。ただ、その結論が何の数字にもとづいているのかは、案外はっきりしない。人口の推計、年金の財政検証、結婚と出産の意識調査。公表されている資料をつなぐと、いま若い世代が置かれている条件は、悲観一色でも楽観でもない、もう少し込み入った形をしている。
いまの20代は、人口の中でどの位置にいるのか
国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(令和5年推計)は、出生と死亡がいずれも中位で推移した場合、2070年の総人口をおよそ8,700万人と見込んでいる。2020年より3割ほど少ない。そのとき65歳以上は3,367万人で、人口に占める割合は38.7パーセントに達する。
| 年齢区分 | 2070年の人口割合(出生中位推計) |
|---|---|
| 0〜14歳 | 9.2% |
| 15〜64歳 | 52.1% |
| 65歳以上 | 38.7%(3,367万人) |
いま20代半ばの人は、2070年に70代を迎える。つまりこの表は遠い未来の他人事ではなく、自分が高齢者の側に入ったときの社会の形を示している。高齢化率が現在の29.3パーセントから40パーセント近くまで上がる一方、子どもの割合は1割を切る。働き手の比率も5割台前半まで下がる。
数字を眺めるときに気をつけたいのは、これが予言ではなく条件つきの計算だということだ。出生率が上振れするケース、外国人の流入が想定より多いケースでは結果は変わる。それでも、すでに生まれている人の数は動かせないため、2050年ごろまでの働き手の規模はほぼ確定している。若い世代にとっては、変えられる部分と変えられない部分の切り分けが出発点になる。なぜ人口が減るのかという背景は日本の人口減少の原因を整理した記事で詳しく扱っている。
年金は「もらえない」のではなく「目減りする」
世代間の話でいちばん誤解が多いのが年金だろう。厚生労働省は5年に一度、制度の健康診断にあたる財政検証を行っている。2024年の検証結果で使われる所得代替率は、受け取る年金額が現役世代の手取り収入の何割にあたるかを示す指標だ。
2024年度の数字は61.2パーセント。夫婦2人分の基礎年金13.4万円と1人分の厚生年金9.2万円を足した額を、現役男子の平均手取り37.0万円で割った値である。そして過去30年の経済状況がこの先も続くと仮定したケースでは、給付の伸びを抑えるマクロ経済スライドの調整が2057年度に終わり、所得代替率は50.4パーセントになると見込まれている。
読み取れるのは、制度が止まるという話ではなく、およそ30年かけて水準が2割ほど下がるという話である。ゼロになるのと2割減るのとでは、取るべき対応がまるで違う。前者なら制度への期待を捨てるしかないが、後者なら不足分をどう埋めるかという設計の問題になる。就業期間を延ばす、企業年金や個人型の積立を併用する、住居費の見通しを早めに立てる。いずれも20代から30代のうちに決めておくほど効きやすい。
人数が少ないことは、不利ばかりではない
負担の話に傾きやすいが、若い世代の数が少ないという事実は、労働市場では逆向きに働く。働き手が細っていく局面では、採用する側が選ばれる立場に回る。賃金、勤務地、働き方の柔軟さといった条件は、人手が余っている時代より交渉の余地が大きい。
職種の面でも変化がある。人手が足りない領域では、機械化や業務の組み替えが一気に進む。物流、建設、介護、農業といった分野で、これまで人海戦術に頼っていた工程が見直され、設計や運用を担う人材の価値が上がっている。担い手の少ない地域ほど、若手に任される範囲は早くから広い。同じ年数でも、都市の大きな組織にいるより裁量の大きい仕事を経験できることがある。
もちろん条件がよくなる領域と厳しくなる領域は分かれる。縮む市場で古いやり方を続ける職場は、人手不足のまま賃金も上がらないという苦しい位置に置かれる。人口減少は全員に等しく不利をもたらすのではなく、どこに身を置くかによって現れ方が変わる。選ぶ側に回れるという条件を使えるかどうかが分かれ目になる。
結婚と出産の希望は、消えたわけではない
若い世代が結婚も出産も望まなくなった、という説明をよく聞く。調査の数字を見ると、そこまで単純ではない。社人研の第16回出生動向基本調査によれば、18〜34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と答えたのは男性81.4パーセント、女性84.3パーセントだった。
たしかに前回調査の男性85.7パーセント、女性89.3パーセントからは下がっている。平均希望子ども数も男性1.82人、女性1.79人へと減った。それでも8割を超える人が結婚を望んでいる事実は残る。望まないから結婚しないのではなく、望んでも至らない人が増えている、と読むほうが実態に近い。
その差を生んでいるのは、雇用の安定、賃金の水準、住居費、長時間労働、育児と仕事の両立の難しさといった条件である。希望と現実の間に開いた隙間を埋めることが少子化対策の目標に据えられているのは、このためだ。若い世代の側から見れば、制度が使える形になっているかどうかを確かめ、必要なら声を上げることが、遠回りのようで近道になる。
地方は、若者に「選ばれる側」へ回りつつある
人口の移動に目を移すと、別の変化が見えてくる。総務省の住民基本台帳人口移動報告では、2025年の東京圏の転入超過は12万3,534人。前年から1万2,309人減り、4年ぶりに縮んだ。東京都単独では6万5,219人だった。集中は続いているが、勢いは一様ではない。
2025年6月に閣議決定された地方創生2.0基本構想は、この10年の取り組みが自治体間の人口の奪い合いになったことを反省として記し、「若者や女性にも選ばれる地域」を基本姿勢に据えた。裏を返せば、地域の側が若い世代に選ばれる努力をする時代に入ったということでもある。地域ごとの事情は地方の人口減少の深刻さを扱った記事にまとめた。
選択肢も一つではなくなった。住民票を移す移住だけでなく、二拠点で働く、期間を区切って地域の仕事に加わる、リモートで関わり続けるといった形が現実的になっている。FLASPOが各地で進めているプロジェクトのように、学生のうちから地域の現場に入る入り口も増えた。こうした関わり方は関係人口という言葉で整理されている。
よくある質問
いまの20代は年金を受け取れますか。受け取れる。制度が破綻して支給がゼロになるという想定は、財政検証のどのケースにも出てこない。論点は水準で、所得代替率が2024年度の61.2パーセントから2057年度に50.4パーセント程度まで下がる見通しが示されている。受け取れるかどうかではなく、どれくらい目減りするかを前提に準備する話になる。
若い世代の負担は、上がり続けるのでしょうか。高齢者の数が増え、支える側が細る以上、一人あたりの拠出が増える方向には圧力がかかる。ただし負担の配分は制度設計で変えられる。年齢だけで支える側と支えられる側を分けない方向へ見直しが進んでおり、働く高齢者が増えれば分母も変わる。固定された条件ではない。
地方に住むと将来が不安になりませんか。地域によって条件は大きく違う。仕事の選択肢や医療機関の距離は確かめる必要があるが、住居費の安さや任される仕事の幅といった利点もある。判断材料が足りないまま決めるより、短期のインターンや二拠点での滞在で実際の生活を試してみるほうが確実だ。
いま何から始めればよいですか。まず、自分に関係する制度を一度調べておくこと。奨学金の返還支援、移住支援金、育児休業や時短の給付など、知らなければ使えないものが多い。そのうえで、働く場所と関わる地域の選択肢を早めに広げておくと、条件が変わったときに動きやすくなる。
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